Twitter→Xで、陰謀論がよりはびこるようになった

――米ツイッターは2022年10月、親トランプ氏のイーロン・マスク氏に買収され、「X」になりました。

ツイッターは買収で様変わりした。「認証バッジ」の有料化で、アカウントの「認証」を買えるようになったため、認証システムは実質的に崩壊したようなものだ。陰謀論やヘイト、過激な投稿を拡散しやすくなり、投稿の節度も、ほぼ完全に失われた。多くのコンテンツモデレーターがお払い箱になったと報じられている。使い勝手が非常に悪くなった。マスク氏自身も、ある種の陰謀論者であることを考えると、問題解決には役立たない。

――『陰謀論はなぜ生まれるのか』によると、陰謀論を信奉する人々の多くは「普通の仕事や愛する家族」を持っており、絶えず暴力的な思考にふけっているわけではないそうですね(第6章)。ごく「普通の人」という印象を受けます。

マイク・ロスチャイルド著、烏谷昌幸・昇亜美子訳『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(慶應義塾大学出版会)
マイク・ロスチャイルド著、烏谷昌幸・昇亜美子訳『陰謀論はなぜ生まれるのか Qアノンとソーシャルメディア』(慶應義塾大学出版会)

そうだ。誰もが陰謀論者になりうる。人には、「真実でないこと」を信じてしまう傾向があるからだ。コロナ禍で、その傾向が強まった。多くの人々が突然、一日中家にいることを余儀なくされ、失業し、家族や友人とも会えなくなって孤立し、やることもなくなってしまった。人々は怒りに駆られ、なぜこのようなことが起こったのか、責めを負うべきは誰かを考えあぐねていた。

そうした、人生の苦難の真っただ中にいる人々の目には、陰謀論が実に魅力的に映ったはずだ。なぜコロナ禍が起こったのかという一般論にとどまらず、なぜ自分がこうした目に遭っているのかという理由付けまで提供してくれるのだから。経済的な問題や医療債務、個人破産は多くの人々を過激な右翼思想や陰謀論へと駆り立てる。

陰謀論者になるかならないかに教育レベルは関係ない

人は往々にして「自分が陰謀論者になるはずがない」と思っている。頭がいいからウソの見抜き方を心得ている、と。だが、何かを信じるのに教育レベルは関係ない。その陰謀論が腑に落ちると感じれば、人は信じてしまう。

また、人間の脳は、理解できないものや未知のものに「危険」を感じるような仕組みになっている。餌食にされたり利用されたりしないよう、耳慣れない音や影、暗闇を恐れることは進化上、有益だった。

今でもそうした機能が残っており、人は暗闇の中に「何か」を見いだす。その「何か」が、人間を捕食する動物から、ユダヤ系米国人の大富豪ジョージ・ソロス氏や人身売買の一味に変わっただけだ。人々が恐れを感じる「何か」だ。陰謀論は、危険を察知してパターン化しようとする人間の脳に影響を及ぼす。