トイレや更衣室の利用など現実的な問題に関しては、トランスジェンダーの人々にとって厳しい流れが続く。AP通信は、オハイオ州のマイク・デワイン知事が、トランスジェンダーの学生のトイレ使用を制限する法案に署名したと報じている。
幼稚園から大学までの公立・私立学校のすべてのトランスジェンダー学生に対し、生まれた時の性別に従って、トイレ、ロッカールーム、宿泊施設を利用するよう義務付けるものだ。
共和党で法案作成を担うオハイオ州上院議員のジェリー・シリノ氏は、「安全性、セキュリティ、そして常識に関わる問題だ。子どもたちや孫たちが最も脆弱な状態にある私的空間で彼らを守るものだ」と規制の必要性を強調する。
AP通信によると、全米50州のうち少なくとも11の州で同様に、トランスジェンダーの女子・女性に対し、公立学校での女子トイレの利用を禁止する法律を採用している。
「存在してはいけないの?」揺れる未成年トランスジェンダーの心
より年齢層の若いトランスジェンダーの子供にとって、状況はさらに複雑だ。子供が性自認を確定していない場合、ホルモン療法で思春期の到来を遅らせ、選択の時間を稼ぎたいと考える親もいる。
CNNは、12歳のトランスジェンダー少女、ケイディーさん(仮名)と家族の事例を伝えている。少女として生きたいケイディーさんへの理解を得ようと抗議活動を続けてきたが、周囲の目は冷たかったという。
「人々がなぜ彼女を憎み、会おうともしないのか、まったく分かりません」と母親は語る。「どこでなら存在を許されるのでしょうか。どうすれば生きることを許されるのでしょうか」と、取材に応じる表情は暗い。
一家は子供の性適合措置に否定的な中部ミズーリ州を離れ、首都ワシントンに隣接するメリーランド州にはるばる越してきた。だが、トランプ氏の政策次第では、もはやアメリカのどこにも居場所はないと考えている。カナダへの移住もやむを得ない、と父親は語る。
ケイディーさんのほかにも、将来を憂慮するトランスジェンダーの未成年は少なくない。CNNによると選挙後、トランスジェンダーの電話相談窓口への入電件数は700%増加しており、トランプ体制下での自身の未来に深刻な懸念を抱いていることがうかがえる。
一方で、子供自身に性別を選ぶ自由を与えるべきとの世論は勢いを増している。米世論調査機関のギャラップの調査では、未成年者への性別適合医療を政府が禁止することについて、過半数の回答者が反対の意向を示している。
激しい攻撃は逆効果…トランス擁護派に広がる路線転換
個人の選択に比較的寛容なアメリカにおいても、トランスジェンダーをめぐる政策は議論を呼んでいる。しかし、今後は対立の構図から歩み寄りの時代へと変化するかもしれない。
米保守系メディアのフォックス・ニュースは、トランスジェンダーの権利運動が行きすぎたためにかえって世間の支持を失っており、活動家たちは対応方法の見直しを迫られていると伝えている。