寛容から厳格対応へ、トランプ氏のトイレ政策は180度転換
だが、この姿勢は1期目の選挙戦と大きく異なる。英インディペンデント紙は、トランプ前米大統領のトランスジェンダー政策に関する方針転換を伝えている。
2016年の大統領選挙中、トランプ氏は米NBCの朝の情報番組「トゥデイ・ショー」の司会者に対し、「現状のままにしておくべきだ。現状で苦情はほとんどない。人々は適切だと感じるトイレを使用している」と述べ、トランスジェンダーの人々のトイレ使用について、本人の選択に一任する寛容な立場を示していた。
当時、ノースカロライナ州では出生時の性別に基づくトイレ使用を義務付ける法案が検討されていたが、その必要はないとの立場だ。
しかし2017年、大統領就任からわずか2カ月で、トランプ氏は公立学校でトランスジェンダーの生徒が自認する性別のトイレを使用することを認めたオバマ政権時代の連邦保護政策を撤廃している。
票集めのため多数派と意見を合わせたか
大胆な方針転換は、有権者の支持集めとも受け取れる。デリケートな問題で火種を巻いて世論を惹きつける手法は、トランプ氏が得意とするところだ。
ニューヨーク・タイムズ紙が取り上げた複数の社会調査によると、有権者の約55%が「トランスジェンダーの権利支援は行き過ぎている」と回答し、60%以上の成人が「トランスジェンダーの女性や少女が他の女性や少女と同じスポーツ競技に参加することに反対」の立場を示している。
同紙による投票日前の選挙世論調査では、トランスジェンダー問題に関しハリス氏を攻撃する広告により、ハリス陣営が浮動票を失っている状況がありありと映し出された。
現在、2期目の大統領就任を控えたトランプ氏は、トランスジェンダーの人々に対し、一貫して厳しいアプローチを続けている。英タイムズ紙によるとトランプ氏は、約1万5000人いるとされるトランスジェンダーの現役軍人を除隊させる命令を計画しているという。
米海軍でアナリストを務めるパウロ・バティスタ氏は「1万5000人を除隊させれば、下級兵から上級将校まで、全艦隊、全大隊の業務に支障が出る」との懸念を示す。米国防総省の統計では、2021年時点で約2200人の軍人が性別違和の診断を受けており、このほかにも数千人単位でトランスジェンダーの軍人が在籍しているとみられている。
繊細な選択を迫られる世論「差別から守りたいがトイレは分けたい」
一方で、アメリカ国民全体として、トランスジェンダーの人々の権利を尊重する考えは広く行き渡っている。ピュー・リサーチ・センターの調査では、60%以上の国民が、トランスジェンダーの人々を差別から保護することに賛成している。
積極的なトランス支援は多数が疑問視する一方、こうした人々が生きにくい社会であってはならないとの感情も働いており、一見して矛盾する調査結果となっている。