息子の脳が受けるはずだった衝撃を吸収

確かに前歯は吹っ飛び、舌先は千切れ、顎は複雑に割れ、口の中は傷だらけになった。しかし、脳は無事だった。

思考力はもちろんのこと、手足の機能にも、視覚、聴覚ほか感覚にも、なんらの障害は(いまのところ)ない。

写真=筆者提供
息子の診断書。「診断名」の部分で、どれほどの重傷だったかが分かる。

警察は自転車とヘルメットを証拠物件として確保したが、後日、その自転車とヘルメットを見て私は絶句した。自転車はカーボンフレームの2カ所がポッキリ折れ、ヘルメットはベコベコになっていた。これらの衝撃吸収がなければ息子は死んでいた。

国際学会でもヘルメットの効用を説く

天の配剤というべきか、あきの入院中、私は今治で開かれた国際交通安全学会(IATSS)に出席していた。日本では初開催である。テーマは自転車の交通安全で、私の発表内容はまさに「自転車ヘルメットの着用率サーベイ」だった。

だから私は急ごしらえの段ボールフリップを作り、その場で「自転車ヘルメットの有効性」を追加して述べた。

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国際交通安全学会で発表する筆者
写真=筆者提供
学会で発表した事故の構図

あきが筆談で述べた「ヘルメットの重要性を伝えなさい」を、実現させようとしているのである(じつはこの記事もそのひとつ)。

自転車ヘルメットには「ヘルメットが必要なほど危険な道路は、インフラにこそ問題がある」とか「ヘルメットを強制すると(主に女性の)自転車ユーザー自体が減ってしまう」などの意見がある。

オランダ(自転車最先進国)や、オーストラリア(ヘルメット完全義務)などの実情を見てきた私は、両方とも頷ける意見だと思ってきた。いや、今でもそこに反対はしない。

しかし、あきの事故は「インフラ」で避けられたかどうか。いろいろあるけれど、私の今の思いはここにある。

「つべこべ言わず、とりあえずかぶろうぜ、自転車ヘルメット」

今治で会った訪日外国人研究者たちも神妙な面持ちでそれを聞いてくれた。

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