制度の収入源と人手不足が起きている
壁を作り出しているのは、社会保険料と企業の手当である。社会保険料は、年収がある額を超えるとすべての所得に課すからである。企業の配偶者手当は、企業にとってみれば、従業員に恩恵を与えるものだから、妻の所得が上がればそれに応じて少しずつ減額し、壁を作らないようにするものではない、と言いたいだろう。
結果、年間所得が壁に近くなると、妻が就業調整して労働時間を減らすことになる。人手不足で、年末の忙しい時に労働時間を減らされてはたまらない、というのが企業の言い分である。
また、せっかくGDPが増加するチャンスを奪っていることになる。政府は、この問題に対して、130万円を超えても連続2年までは社会保険料を払わなくてもよいようにした。あるいは、保険料相当額を企業に支払い、従業員の負担が増えないようにした(「『年収の壁』対策発表」『日本経済新聞』2023年9月28日)。
「共働き」は当たり前の社会になってきたが…
社会保険料は、国民に負担を求めるものだから、ある所得を超えたら、すべての所得に一挙に保険料を課そうというのは無理があると私は思うが、社会保障の専門家はやけに説教臭いことを言うらしい。
2023年9月21日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会の部会が、年金制度の見直しに関する議論を始めたところ、委員からは「就労して負担能力があるのに、壁があるから本人の保険料を免除するのは理屈が立たない」「他の被保険者との間で不公平になる」といった意見が相次ぎ、そもそも「給付があるのに壁と呼ぶこと自体がおかしい」と、政治による課題設定そのものを疑問視する声も上がった、とのことである(「『年収の壁』問題、見直し議論スタート減免策検討に慎重意見も」『朝日新聞』2023年9月21日)。
日経社説も、「社会保障ゆがめる『年収の壁』助成金」と書いている(『日本経済新聞』2023年9月29日)。たしかに夫だけの片働き世帯が減って、妻も外で働く時代になったのだから、妻もバリバリ働いてキャリアを追求し、社会保険料を払うべきだという議論も分かる。
これからの若い女性はそうすべきかもしれない。しかし、専業主婦が当たり前の時代を生き、保育所もベビーシッターもイクメンもあまりない時代に、家庭でワンオペ育児をしてきた女性に、いまさらバリキャリになれというのは気の毒だ。