相手の実家からは結婚を認めてもらえなかった

妊娠を機に、2人は結婚したいと考えた。しかしB君の母親が、若い彼らの決断を許さなかった。ハーさんはB君の自宅まで足を運び、2人で何度も説得を試みたものの、認めてもらうことはできなかった。それどころか、結婚だけでなく出産にも反対され、「Bに子どもを認知させるつもりはない」とまで告げられる。結果、B君と別れてしまう。

お腹の子どもとともに「ノー」を突きつけられてしまったけれども、ハーさんだけは子どもを見捨てることができなかった。やむなく、1人で産もうと決意する。

そんななか、妊娠を知って助けてくれた人もいた。ハーさんが通う日本語学校の教師たちである。日本には、未婚のシングルマザーを対象にした公的手当があることを教えてもらい、アドバイスに従って市役所を訪問し、援助を求めたのだった。

子どもは生まれてすぐ児童相談所に連れて行かれた

市役所の職員から説明を受け、何度も窓口に通って出産育児一時金や、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当の申請手続きを進めていく。しかし、日本の社会のしくみも、言葉もよくわからないまま、1人で子どもを産もうとしている若い外国人に、市役所職員は不安を覚えたようだ。

特に職員の不安を煽ったのが、手続きに必要な書類のひとつとして提示された預金通帳だった。印字されていた残高は、7万円。どうやらそれが、ハーさんの全所持金のようだった。

裏を返せば、だからこそ公的な支援が必要であり、煩雑な手続きを行っていたわけだけれど、市役所職員から児童相談所に通報されてしまう。それを受けて児童相談所の職員は、ハーさんが暮らすワンルームのアパートを何度か訪問。彼女が生まれてくる赤ちゃんのために、ささやかながらおむつや衣類などを準備していた様子を確認している。

2020年2月中旬、ハーさんは病院で女の子を出産した。そして、満足な育児ができないと判断した児童相談所は、“無断で”赤ちゃんを病院から連れ去り、一時保護してしまう。

気づいたら自分のもとから赤ちゃんがいなくなっていたのだから、ハーさんは産後のだるさを引きずりながらパニックに陥った。

「無断で連れ去った」というのは、あくまでも彼女の主張で、何かしらの断りや通達があったのかもしれない。いや、「あった」と考えるのが普通だろう。いずれにせよたしかなのは、日本語のよくわからないハーさんが理解できるような説明はなされていなかったということだ。