町田署は被害者も共犯だと見立ててしまい、捜査は迷走する
詐欺事件発覚後、仲介業者である東亜エージェンシー・松田の身柄を押さえられる状況だった町田警察署の捜査は、迷走を極める。その原因は捜査陣のやる気のなさもあるだろうが、それよりむしろ、まったく見当違いな筋立てをしたせいだといえる。あろうことか、町田署では被害者の津波を共犯に見立ててしまうのである。
津波は世田谷の元NTT寮の購入のため、取引先のY銀行からその分の融資を受けた。それについて町田署では、津波が地面師たちと共謀し、銀行から融資を騙し取ろうとしたのではないか、と疑ったというのである。
「私は融資に関して個人の連帯保証をしているんですよ。つまり会社が返済できなければ代わって私個人が銀行に払わなければならないのに、なぜそんなことをする必要性があるのか。あまりに間違いがひどいのです」
津波がこう憤る。
「当初、私は町田署に取引の資料や私の仕事のノートを提出し、捜査を担当した係長がそれをコピーしていました。そこには、この件だけでなく、私の海外の仕事の計画やそれにまつわる資金需要のことも書いていました。それを見た係長が、銀行から融資金を騙し取り、海外に持ち出そうとしたのではないか、と疑ったのです。『ひょっとしたら、ベトナムにカネを運ぶつもりだったんじゃないか』と。係長がそんな明後日な方向の話をしていました」
濡れ衣を着せられた被害者は「警察署で焼身自殺をしてやる」
まるっきりの妄想というほかないが、取り調べの中で、松田にありもしない話を吹きこまれた町田署の係長は、津波の共犯説を信じ込んだ。つまり町田署は、「津波が人身御供として松田を警察に差し出したが、当人を苛めすぎたので津波が共犯だと漏らした」と見立てていたのだという。となれば被害者は銀行ということになり詐欺という事実は動かないはずだが、そこにも関心を示さない。
あまりに荒唐無稽な話である。だが、事実、いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。それは彼らがよく行う捜査の攪乱のための情報操作でもある。そこに当局がまんまと乗せられた結果、捜査は遅々として進まなかった。
事件の直後、主犯格の北田がみずから町田署に出頭したことは前に書いた。そのときにも「津波共犯説」を唱え、似たような話をしてきたとも伝えられる。津波の怒りはおさまらない。
「あのときは本当に悔しくて、警察署の玄関先で焼身自殺をしてやろうと思ったのは本当です。そのくらい絶望的になりました。実際、自殺を会社の弁護士の先生に相談したほどです」
津波にとっての救世主が、その顧問弁護士だった。