上顎の成長により下顎の成長も影響を受けていく

例えば、上顎の小さい成長の子は下顎の成長も悪いことが多く、結果的に出っ歯になる傾向があります。また上顎の小さい成長の子は、時には下顎が上顎の成長を超えて受け口になっていく子もいます。

つまり、上顎の成長により下顎の成長も影響を受けていくわけです。そのため、人間の骨格はこの10〜12歳くらいまででほぼ決まってしまいます(図表3)。

出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

もう一度強調しておきますが、10歳までに上顎を十分な大きさまで成長させることが非常に重要です。次に第1期矯正のもう1つの目的である、悪習癖の除去について説明します。

悪習癖とは、歯並びや噛み合わせに悪い影響を及ぼす癖のことです。口をポカンと開けている口呼吸や指しゃぶり、頬杖をつくこと、姿勢の悪さなどが代表例です。実際は悪習癖が原因で顎が正しい方向に成長しないことが多くあります。

わかりやすい例が、指しゃぶりです。指をしゃぶっているので、前歯が噛み合わない開咬という噛み合わせになってしまいます(図表4)。小児期に顎が大きく育ち、悪習癖を取り除くことができれば、あとは成長とともに歯がきれいな形で並ぶようになります。

出所=『0歳から100歳までの これからの「歯の教科書」』(イースト・プレス)

5〜6歳くらいから矯正治療を開始するケースも

一般的な矯正治療である第2期矯正の問題は、小さな顎の中に永久歯を無理に並べようとすることです。歯が並ぶスペースを作るため、健康な歯を抜く必要が出てきますし、抜歯後の歯と歯の間のすき間を矯正して埋めることでさらに口の中が狭くなります。

小さな顎に小さな歯並びを人工的に作るので、舌のスペースが狭まって滑舌が悪くなる場合もあります。また悪習癖が治されないまま矯正を終了しますので、後戻りが著しくなります。つまり、歯並びは一旦きれいになったが、口呼吸自体は一切治っていないということがよく起こります。

第1期矯正をしない歯科医師が多い理由は、第2期矯正の方が効率的に治療ができるからだと考えられます。第1期矯正の場合、上顎の骨の成長のコントロールや、悪習癖の除去のためにトレーニングが必要になるため、時間や労力が非常にかかります。悪習癖を治すためのトレーニングにはさまざまなメニューがあり、保護者の方や患者さんの協力が不可欠です。

協力いただけないご家族の場合は、治療効果が著しく下がる場合もあります。そのような不確定要素を考慮して治療するよりも、歯科医師主導で一部の歯を抜いて半ば強制的に歯を動かし歯並びを治した方が時間はかかりません。

私の考える本来あるべき矯正は、歯並びを無理にそろえることではなく、初めから顎を大きく成長させて、歯がきれいに生えそろう環境を整えることです。そして、悪習癖をしっかり治し、安定した状態で矯正治療を終えることです。

そのためには、治療は早ければ早いほど望ましいでしょう。我々のクリニックでは意思疎通のできる5〜6歳くらいから矯正治療を開始する子どももいます。