こうした対応について知事・副知事は「手続きを踏んだ適切・適法な調査だ」と言い張りますが到底理解できません。副知事の証言からは、第三者調査の必要を感じていたが知事には進言せず、むしろ知事から「スピード感をもって徹底調査するように」と命じられたので第三者調査を飛ばしたというニュアンスが感じられます。こんな知事・副知事の権力行使がまかり通れば、日本の民主主義は崩壊ですよ。権力者の疑惑を通報すれば潰されるとしたら、誰も公益通報などできなくなります。

もっとも、斎藤知事の苦労も理解はできます。自治体の首長(知事や市長)と職員とでは利害がすれ違うことも珍しくありません。同じ役所で働いていても、民意を背負った首長とペーパーテストで採用された職員とでは政策に対する温度感が異なります。特に改革を掲げる首長は、現状維持を志向する多くの職員と対立関係に陥ります。かつては僕自身もそうでした。内部告発や誹謗中傷、怪文書の類は、斎藤知事の比ではなかったはずですよ(笑)。

人の生死を左右する権力の怖さを自覚せよ

でも僕はそれらについて、発信者を特定して「嘘八百」と封じ込めることはせず、第三者的な調査を徹底的に行いました。僕に原因があれば厳しく指摘してほしいとも指示しました。結果的にすべてシロ、つまり事実無根という結論が出ましたが、それを大々的に公言することはしませんでしたし、告発者を特定して罰することは絶対にしませんでした。そんなことをやれば後に公益通報がなくなるからです。

知事・市長の権力は、使い方を誤れば他人の人生、場合によっては生死を左右しかねません。役所内の人事はもちろん市民に対しても同様で、例えば不動産業や飲食業では知事名で営業許可証が出ています。万が一にも恣意的に不許可とすれば、その人の生活は絶たれます。その先には中国や北朝鮮のような独裁政治が待っています。大げさではなく、それくらいの意識で政治家は権力を扱うべきだと思います。

もう一つの問題はパワハラです。今回、社会通念ではパワハラと捉えられるようなことを、斎藤知事は「業務上必要な範囲で適切に指導した」と語っています。斎藤さんは本心からそう思っているのかもしれません。というのも、部下への過剰な叱責や土産物をもらって当然という感覚は、国会議員に共通するものです。国会議員が役人を怒鳴り散らしているさまは、およそ対等な社会人同士とは思えません。

写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです

斎藤知事は総務省官僚としてキャリアを積んできました。彼自身が国会議員や上司たちにされてきたことを、今度は知事になって県の部下たちに行っている。それが「適切な指導」だと信じ込んでいるのでしょう。「虐待の連鎖」と同じように「パワハラの連鎖」。まずは永田町の政治家たちから、襟を正す必要があるとも思います。

今回の兵庫県の騒動によって全国の知事や市長たち、永田町の国会議員たちが、自分のパワハラも取り上げられないか戦々恐々としているとも聞きます。これまでパワハラ気質だった、知事、市長、国会議員が急に大人しくなったとも役人たちから聞きます。

この一件で、政治家たちが自分のパワハラに気付き、それが止まり、役人たちもこれまでのおかしさに気付いて、今後はそれらを許さない職場環境になることを強く願っています。

(構成=三浦愛美)
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