「犬猫の飼育環境は向上している」との声もあるが…

一方、飼養管理基準省令が適切な指導につながっていることは確かなようだ。

埼玉県の担当者は「これまでのあいまいな基準では、ケージが『狭い』と指摘しても、業者は『十分だ』と主張して水掛け論になっていた。飼養管理基準省令によって業者からのそうした反論はなくなり、指導が徹底できるようになった。多くの業者で、飼育環境は改善した。今までより立ち入り検査に時間がかかるが、そのぶん将来的に、状態が悪い業者の指導で苦労することは減るだろう」と話す。

調査の自由記入欄には、

「より詳しく、的確に指導できるようになった。犬猫の飼養環境は向上している」(和歌山県)
「指導のばらつきは確実に少なくなった」(大分県)
「具体的な指導がしやすくなった」(浜松市)

などと、飼養管理基準省令の実効性の高さを評価する声が多く集まった。

結果として、口頭や文書による「指導」の対象になった事業所は全国で計3993にのぼった(一部自治体は延べ数で回答、7自治体は未集計)。98事業所への指導を行った福岡県は「身動きができないような狭さで飼育されていた犬猫の飼育環境が改善された」とする。迅速に対応することは現実的には難しい

ただ「勧告」にまで至ったのは計13事業所にとどまる。行政処分にあたる「命令」が出されたのは2事業所にすぎなかった。

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環境省が自治体向けに作った飼養管理基準省令の解説書(運用指針)では、問題のある事業者に対して「勧告を速やかに行うことが重要」「勧告を経て、行政処分である命令・登録取消処分等を速やかに行うこと」「躊躇ちゅうちょすることなく厳正かつ速やかな対処をすることが法の要請するところ」などとしているのだが……。

たとえば、山形市の担当者は「勧告や命令は業者にとって重い。慎重な判断をせざるを得ない」とする。広島市の担当者も「優良な業者は指導すれば改善するが、自分のやり方を一切まげず、改善してくれない業者もある」と明かしたうえで、そうした業者には「何とか改善してくれるよう、繰り返し指導するしかない。何度も電話をかけ、何度も現地に足を運ぶこともある」と言う。

一方、さいたま市では、市内の住宅街で営業を続けてきた猫の繁殖・販売業者に対して21年10月以降、3度にわたり改善するよう勧告を行った。業者は「基準があることは理解するが急には対応できない」などと主張、指導に従わなかった。さいたま市は22年春に業者名を公表し、次いで改善命令も出した。並行して刑事告発の準備も進め、経営者は同年9月、埼玉県警に動物愛護法違反(虐待)の疑いで逮捕された。

「アポなし検査」をしてもごまかされてしまう

さいたま市の担当者は「例年約120件の立ち入り検査をしているが、そのうち半分程度はアポ無しで行う。それでも、この業者もそうだったが、『今日は都合が悪いから後日』などと拒否されて結局、状態の悪い動物を隠されたりする。行政の権限の範囲では無理には押し入れず、飼養管理基準省令が守られているかどうか確認が難しい面もある。警察との連携が必要だ」と話す。

自治体の現場では課題も見え始めた。自治体担当者らから「確認のしようがない」(静岡市)との指摘が寄せられた基準が複数あった。

たとえば、運動スペースがない狭めのケージで犬猫を飼育する場合、「1日3時間以上」運動場で自由にさせるという規制がそうだ。鳥取市の担当者も「立ち入り検査の際に1日何回、何匹ずつ運動場に出しているのか尋ね、計算が合うか確認している」というが、そこまでしても、実際のところはわからないと嘆いた。雌の交配年齢や出産回数(犬は6回まで)についても「確認できる範囲は限られている」(さいたま市)という声などがあった。

さらに静岡市は「一番の問題は移動販売。現状の省令では適切な指導、処分が難しい」とし、さいたま市は「動物の健康や安全を守るためには、業者のもとで虐待されるなどしている動物を行政が強制的に緊急保護できるような、さらに踏み込んだ法整備が必要だ」と指摘していた。