「ほんとはテレビに出たいんよ! テレビ局の人、取材に来てくれんかな?」

池田さんは地元のテレビ局に直接電話をかけ、新成人を取材してもらえるよう頼み込んだこともある。こうして北九州市の成人式は、地元テレビ局で放映され始め、その華美な姿が目を惹き全国のキー局までもが取材に来るようになる。

写真提供=みやび
一生に一度の成人式を思い出に残るものにしてほしい。そんな思いが池田さんの原動力になった。(みやびのInstagramより)
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北九州市の新成人たち。地元の友人と衣装を合わせることも多い。(みやびのInstagramより)

しかし、北九州市の成人式が有名になるにつれて、批判の声も高まっていった。

「北九州の恥」と苦情の電話が殺到した

「2012年ごろからかな、誰かがブログに書いたことをきっかけに、最初は匿名掲示板で叩かれ始めて。メディアでも取り上げられてからは、特に伝統を重んじる地元の方からの苦情の電話が入り始めたんです」

さらに、当時人気だった深夜バラエティで、北九州市の成人式が笑いのネタとして取り上げられたことが、地元からの批判を強める後押しとなった。

「北九州の恥だ」
「着物の伝統を知っているのか」
「日本の伝統を汚すな」
「この店のせいで、北九州の治安が悪くなってるんだ」

成人式を終え、スタッフ全員が疲れ果てている翌日に、批判の電話は集中した。池田さんとスタッフは、そのたびに一言も反論せず「貴重なご意見、ありがとうございます」と頭を下げた。

さらに2015年ごろからは、いわゆる「荒れる成人式」と北九州のド派手成人式が結びつけられてさらに批判が高まり、住民から北九州市に「陳情書」が出される事態となった。

『……この見るに堪えない成人式については、小倉北区の貸衣装店が成人式には不適切な服装や髪型を勧めることに問題がある。(中略)この恥ずかしい状況を変える責任は、北九州市にある。成人式について、考えてみてはどうか』(平成27年9月8日受付、陳情第106号より一部抜粋)

周辺住民からの声に押され、とうとう北九州市が動く。2016年1月10日の成人の日を前に、市は公式ホームページで異例の呼びかけを行った。

「新成人の皆さんにとって、『大人』として出席する初めての一大行事、きちんとした服装で出席するよう心がけましょう」

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氏名が書かれた幟を掲げ、ド派手な衣装を着飾る新成人たち。これがスタンダード。(みやびのInstagramより)

テレビやインターネット上で揶揄され、苦情の電話を受け続け、さらに市からも自分のデザインした着物を否定される。こうした批判が、成人式が終わるたびに繰り返された。