現場の対応だけでなく、法整備も必要
対策本部には日々、102の警察署から50件前後の人安事案が報告される。事件に発展しそうな案件は、相談者が警察署にいるうちに対策本部に電話速報するのが決まりだ。「もう一回相談者連れてこい」「これダメ。レイセイ(逮捕令状請求)だ」「安否確認して」。参事官や理事官ら幹部は速報表の一つひとつに目を通し、動きが鈍い署には逐一指示を出す。そうやって警視庁全体の人安事案について見誤らないようにしている。
警視庁には苦い経験がある。先述の東京都三鷹市で起きたストーカー殺人事件(2013年10月)と、小金井市の女子大生刺傷事件(16年5月)だ。被害者はいずれも署に相談していたが、結局事件に巻き込まれた。
幹部は「三鷹、小金井……。第3の事件があったら警視庁は終わりだぞという気持ちでやっている」。警視庁の18年のストーカー相談件数は1784件、DVは9042件で、いずれも全国的に見て突出している。22年はそれぞれ1207件、8389件だった。対策本部の捜査員は署に指示を出したり、出向いたりして人安事案への対応を支えている。
危機管理に精通する元警視総監の高橋清孝は「国民の命に関わるような事案が多い中、現場で警察が適切に権限行使できる根拠規定を備えるべきだ」として、法整備の必要性も訴えている。