世界遺産の目的は「後世に無傷で手渡す」こと

このように世界遺産は広義の、そして実質的な「国が進める観光振興」であり、登録運動に対し各自治体も含め多くの公金を費やしている事業であるだけに、観光振興という側面に限って言えば、費用対効果を考えると眉唾に思えてくるのだ。

佐滝剛弘『観光消滅 観光立国の実像と虚像』(中公新書ラクレ)

世界遺産制度の理念は、「人類の宝物を後世の人々にそのまま受け渡す」ことであり、実は観光振興よりそちらの方がはるかに重要なミッションである。実際、「無傷で手渡す」ために観光がそれを阻害するなら、観光そのものをストップさせることもありうる。

先述した福岡・沖ノ島が観光客の上陸を一切禁止したのもそのためであるし、ハワイの世界遺産「パパハナウモクアケア」(北西ハワイ諸島全域を指し、太平洋戦争で日米間の戦闘があったミッドウェイ環礁も含まれる)も観光客の入島は全面禁止である。

そして、その世界遺産の理念が多くの人に浸透しておらず、単なる観光地のお墨付きのように思われていることが大きな問題であり、それにも世界遺産を観光地としての側面でしか紹介しないことが多い大手メディアが加担している。

逆に言えば、世界遺産の物件が多いことと、「観光立国」であることは直接の関係がない話である。台湾には人口のほぼ半数にあたる1186万人(2019年)もの外国人が来訪しているが、台湾は世界遺産の登録を行うユネスコに非加盟のため世界遺産は一件もない。

これは極端な例ではあるけれど、この1186万人の中に世界遺産を求めて来訪する観光客は一人もいないわけである。

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