100歳の人の幸福感は中年期や前期高齢者とあまり変わらない

これは、老年的超越を理解する上でも非常に重要な考え方になります。

PGCモラールスケールは、その人がどのような精神状態であるかを「心理的動揺」(感情の揺らぎ)、「老いに対する態度」(老いの受け入れ)、「孤独感・不満足感」(気分の状態)などから考察し、幸福感を評価しようとする質問票です。

たとえば「あなたには心配なことがたくさんありますか」は「心理的動揺」に、「あなたは若いときと同じように幸福だと思いますか」という質問は「老いに対する態度」に、「生きていても仕方がないと思うことがありますか」は「孤独感・不満足感」を評価します。

質問は全部で17項目あり、個人的には、100歳の人にこんなことを聞いてもいいのだろうかと思うような質問(たとえば寝たきりの人に「生きていても仕方がないと思うことがありますか」など)も中にはあります。いずれにせよこのPGCモラールスケールは現在でも多くの高齢者調査で使われています。

さて、この質問から計算できる得点を異なる年齢間で比較すると、驚くべき結果が出ました。100歳の人の得点が、中年期の人や若い高齢者たちのそれとあまり変わらなかったのです(図表2)。若い人は健康な人が多く、体も自分の思った通りに動かせるし、老いを意識する機会も少ないと思います。一方、100歳の人には機能の低下によってすでに行動に多くの制限があり、視力が落ちて耳も遠い人が多く、しかも家族や親しい友人の死も多く経験している。にもかかわらず、幸福感がそれほど下がっていないと考えられたのです。

たとえ寝たきりでも「自立していない=不幸」ではない

この結果から、年齢が高くなるにつれて、体の状態と心の状態の関係は弱くなるのではないか、言い方は悪いですが「ぼろは着ててもこころは錦」状態がはっきりしてくるのではないかということがわかってきました。

同じテータから自立が難しい人のみに注目すると、もっとはっきりした結果になります(図表3)。60歳から90歳までは、自立が困難な人の幸福感は低いですが、同じような状態の100歳を見ると、むしろ幸福感が高いことが見えてきました。後年、85歳以上の方たちに行った調査でも同じように病気の有無や、身体機能のレベルと幸福感の関係が弱くなることがわかっています。

そこで私は、主観的幸福感の内容はどんなものだろうか、そして何が理由で幸福感を得られるのか、前出のMさんのような100歳の人たちに聞いてみることにしました。

出所=『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ新書)
出所=『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ新書)