なぜプロ野球で誹謗中傷が増加したのか

SNSでは、試合で失策した選手、ファンが反感を覚えるようなコメントをした選手などに、人格を傷つけるような言葉を投げかける投稿を上げる事例が多発しているのだ。

昭和の時代のヤジにも似たようなものがあったが、昔との最大の違いは、そうした誹謗中傷が、選手にピンポイントで届くということだ。

SNSをする人の常として「エゴサーチ(自分の名前を検索エンジンにかけて、ネット上で自分がどのように言われているかを調べること)」をするが、そこには驚くほど攻撃的なコメントが並んでいたりする。

その選手だけでなく配偶者や子供を攻撃するものも多い。

最近は「リア充」を求めて、選手やその家族がプライベートをSNSで公表することも多いが、そうしたものがSNSの誹謗中傷の餌食になるのだ。

「不用意に“リア充”を発信する選手も悪い。軽率なことをするな」という意見もあるだろうが、プロ野球選手が自衛すべきなのは当然としても、誹謗中傷は「傷つけた方」に非があるのは明らかだ。

特に日本ではSNS上の匿名による誹謗中傷が多い。自分は“身バレ”しない安全な立場にいて、物陰から相手を攻撃するのだ。卑劣であり、非は一方的に彼らにある。

プロ野球に、こうした誹謗中傷者が急増したのは、一つにはプロ野球に多くの観客が押し寄せるようになり、ファン層が一気に拡大したことがある。

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根底にあるのは「ゆがんだ承認欲求」

NPBが観客数を実数発表し始めた2005年、プロ野球の観客動員は1992万4613人、1試合当たり2万3551人だったが、2023年は25.8%多い2507万169人、1試合当たり2万9219人、今季は1試合当たり3万人超えが確実になっている。

ここまでお客が増えれば、その中には卑劣な思いを抱く劣悪なファンも混じってくる。

それに加え、マーケティングの一環として、球団や選手が積極的にSNSで発信をし始めたことも、それに拍車をかけた。

SNSは、より低いコストでファンとの距離感を縮めて、ファン層のロイヤリティを高めることができる。非常に効果的な手段であり、球団側はSNS発信専門のスタッフを設置し、試合前後やオフなどの動画をアップしている。また球団は選手にもショート動画などを発信するように勧めている。

その結果としてSNSを通じてより広範なファンを獲得することができたのだが、その中にはSNSで選手との距離感が縮まったと勘違いして、何とか選手と個人的につながりたい、とか、自分の言葉で選手に影響を与えたい、などと考える人も出てくる。

その果てに、悪感情を持たれてもいいから選手の心に爪を立てたい、と思う人も混じって来るのだ。つまり、誹謗中傷する人間の心理には「ネガティブでもいいから、対象となる人間に認知されたい」という、ゆがんだ承認欲求があるとみるべきだろう。

こうしたパターンは、スポーツだけでなく芸能、文化などあらゆるジャンルで見られる。