着るか着ないかで生存率は2倍変わる

海の事故といえば、海水浴を楽しむうちに波にのまれるケースが想像されがちだが、船に乗って重大な事故に遭遇することも少なくない。それも「タイタニック号」のような大型客船ではなく、小型の船舶による事故のほうが多発しているのが現状だ。

船に乗っていて不測の事態が発生し、事故に遭遇した人数は近年だと年間700〜900人程度で推移している(海上保安庁調べ)。このうち、海に投げ出されるケースは百数十人に上っており、その後、死亡・行方不明に至るのは半数を超える。

海上保安庁「海難の発生と救助の状況」より作成

その際、半数以下の生存者となれるかどうか、その大きな分かれ道になるのが「ライフジャケットを着るか着ないか」だ。

海保の2020年の調査によると、ライフジャケットを着用して海中転落した場合の生存率は、未着用のケースに比べて2倍以上。逆に、着ていなかった場合の死亡・行方不明率は着用時の3倍というデータも別途存在している(神戸地方海難審判庁発表資料)。

海上保安庁「令和2年 海難の現況と対策」より

2018年の法改正によりあらゆる船で義務化

「ライフジャケットが命を守ります!」――国土交通省や海保、水産庁、警察庁は、すべての乗船者の安全を確保するため、ライフジャケットの着用を強く訴えている。相次ぐ船の事故を受け、国は2018年、20トン未満の小型船の乗組者に対してライフジャケットの着用義務化に踏み切った。

以前から20トン以上の船は船員法によって着用が義務化されていたため、この法改正により原則としてすべての船舶乗船者への着用が必須となった。

乗船者も含め、着用していなかった場合には船長(小型船舶従事者)に違反点数2点が付与され、再教育講習を受けなければならない。違反の点数が累積し、行政処分基準に達した場合には、最大で6カ月の免許停止といったペナルティーが待っている。

ライフジャケットそのものにも基準がある。国交省によると、水中で浮き上がる力が7.5kg以上あることや顔を水面上に維持できることなど、さまざまな安全基準を満たした「桜マーク」(型式承認試験および検定への合格の印)が付いたタイプでなければならない。薄手でカラフルなウェイクボード用などは対象外で、仮に着ていても罰則の対象となってしまうから要注意だ。