タナケンのモデル、エノケンも興行師に出演料を持ち逃げされた

ちなみに、笠置と映画や舞台で組んでいた喜劇王エノケンもまた、お金に苦労の多い人生だった。

自伝『榎本健一 喜劇こそわが命』(日本図書センター)では、息子のニセモノが軍隊を慰問したり、エノケンのせがれと名乗って金を借りて行ったりしたことで、ニセモノにだまされた人が何人も訪ねて来たエピソードが記されている。しかし、本来は利用され、巻き込まれたことに腹を立てる場面ながら、エノケンの以下の対応はあまりにお人よしだった。

「ニセモノにだまされたと知ってその人は、青い顔して、困った困ったと、しょげてしまった。あまり気の毒なので、それでは私がお払いしてあげましょうと、貸した金をそっくり差し上げたら、大変喜んで帰っていった」
榎本健一『榎本健一 喜劇こそわが命』(日本図書センター)

しだいにニセモノが悪質になって行ったことで、世間と、病弱な息子への影響を考え、警察に事情を説明して取り締まってもらうことにしたというが、その後、息子に先立たれてしまう。

さらに、エノケン自身、最期の巡業で得るはずだったギャラを興行師に持ち逃げされたことが、近代演劇研究者・笹山敬輔氏(内外薬品社長)の著書『昭和芸人 七人の最期』で記されている。

歌や芝居に命をかけ、ステージ上で輝く一方、情の厚さゆえに「お金」に群がる人々に利用され、苦労した笠置とエノケン――お金にまつわる話からも、二人の意外な共通点が見えてくるのだった。

写真=プレジデントオンライン編集部所有
映画『お染久松』(1949年)の榎本健一
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