5000万円相当の大金を使い込んだ山内は解雇される
ところで、笠置が羽鳥善一(草彅剛)のモデル・服部良一と4カ月のアメリカ公演に旅立つのが、昭和25年6月。なんと山内は、笠置の渡米直前の大事な時期に笠置の金を使い込んで、マネージャーをクビになったわけだ。250万円という金額は、現在なら5000万円以上に相当すると思われる。これは山内を家族のように思い、信頼していた笠置にとって、相当にショックなことだっただろう。
にもかかわらず、当の山内自身は、クビになった直後に少なくとも3日間も茶屋通いをしていた。その後も、ロッパの6月21日の日記にも登場。ロッパの家を早朝に訪れ、7月8、9日の2日間、スポーツセンターでの催しにエノケンと一緒に出てくれと依頼をし、その催しが無事行われたことが7月8日の日記からわかる。
つまり、山内は笠置のマネージャーをクビになり、そのことが周囲に知られている中で、笠置が渡米して不在の間に笠置の「女優業」のパートナー・エノケンやその仲間でありライバルのロッパと仕事を普通にしているわけだから、面の皮の厚さはなかなかのものだろう。
実際はドラマのように誠実な男だったとは思えない
一方、この少し前から笠置は高額納税者として名を連ねるほどのスターになっていた。『サンデー毎日』(2015年1月18日)「一億人の戦後史『サンデー毎日』が伝えた『終戦の情景』 ブギの女王笠置シヅ子を悩ませた税金と愛娘の子育て」では、こんな記述がある。
「税務署に『お前さんの年収はもっと多いはずだ』と詰め寄られ、年収が申告より多いとされれば追加納税――人気者ほど税務署相手に苦戦を強いられていたようだ。1948年(昭和23年)5月2日号の『人気者と税金』では、戦後初のベストセラー小説『肉体の門』の作家・田村泰次郎や人気役者・長谷川一夫に交じって、歌手の笠置シヅ子がこう語っている。『女手一つで子を養うてるわてに、今度の税金はあんまり高うて、たまげてしもうた、よう拂えんワ』 そして取材中、急にむずかり出した愛娘に乳房をふくませた、とある」
笠置の苦労を誰よりも間近で見続けて来た山内が、その金を使い込んだことを思うと、よけいにその人間性に疑問がわいてくるところではある。ドラマの中でずっとスズ子を支えると誓った山下が急にマネージャーを辞める展開になったのは、この史実を反映してのことだったのだろう。