お墓参り習慣が定着し、生花の消費量が全国屈指の九州の県

そして16日にはあの世に戻ってもらうために、送り火をするのだ。筆者の住んでいる京都では毎年16日夜に、「五山の送り火」という仏教行事がある。5つの山に「大文字」(2山)「妙・法」「船形」「鳥居形」が灯される。筆者の寺からは「鳥居形」がよく見える。

写真=iStock.com/CHENG FENG CHIANG
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燃え盛る炎にのせ、ご先祖さまの魂は虚空へと舞い上がり、あの世に戻って行かれるのだ。この時、コップに入れた水に送り火の炎を映して飲めば、無病息災が約束されるとの言い伝えがある。

京都を訪れる観光客はしばしば「大文字焼き」と呼ぶが、京都人はこの表現を嫌がる。あくまでも此岸(この世)・彼岸(あの世)を橋渡しする意味での「送り火」であることにこだわるからである。

また、京都では送り火が見える立地のマンションなどは不動産価値が高くなる傾向にある。これらのエピソードからは、伝統的宗教行事を大事にする京都人の矜持を窺い知ることができそうだ。京都ではお墓参りと文化が融合し、なんとも深淵な世界が繰り広げられるのである。

撮影=鵜飼秀徳
京都・大谷祖廟

春秋のお彼岸も同様に、お墓参りする人は多い。そもそも彼岸とは、西方の彼方にある極楽浄土を表す。つまり迷いのない、悟りの世界だ。彼岸にたいするのが此岸。我々が今を生きる迷い(苦)の世界のことだ。

お彼岸の中日は、3月の春分の日と9月の秋分の日。つまり、太陽が真東から昇って真西へと沈む。そのことからお彼岸は、この世とあの世とをつなぐ橋渡しの日と考えられている。太陽が真西に沈んでいくので、「ああ、あの太陽の方向に大切な人がいる極楽浄土があるんだな」と思いながら、手を合わせていただければ、故人と思いが通じるはずだ。

他方で、前出の調査結果にもあったようにお墓参りに意味を見出さない現代人も少なくない。その実、お墓参りが社会の安寧秩序をもたらしているとの見方もある。

面白いデータを紹介しよう。例年、鹿児島県は1人あたりの生花の消費量が国内トップクラスで多く、日常的にお墓参りすることで知られている。共同墓地を訪れると、いつでもどの墓にも鮮やかな花が供えてある。墓の周りも奇麗に掃き清められている。鹿児島県人は、供養に篤い県民性なのだ。

撮影=鵜飼秀徳
鹿児島県内の墓地で。どの墓にも生花がお供えされている。

そこで、人口10万人あたりの刑法犯認知件数(殺人、強盗、強姦、暴行、傷害、放火、窃盗など)を都道府県別にみてみる。供養に篤い鹿児島県はどうなっているか。

2017年(415件、39位)
2018年(405件、35位)
2019年(351件、40位)
2020年(314件、38位)
2021年(287件、39位)
2022年(318件、37位)
2023年(422件、31位)

と、全国47都道府県の中ではかなり低位である。ちなみに例年、突出して犯罪認知件数が多いのが大阪府(2023年、912件)だ。

お墓参りを通じて、ご先祖さまに「見られている」意識が人々の心に根付き、日々の抑制的な行動につながっていると考えるのは飛躍が過ぎるだろうか。