解雇コストが低い若者は「雇用の調整弁」
若年層の高い失業率の背景として指摘されるのが、大学卒業者が年々増加するなど高学歴化が進展する一方で、高レベル人材を必要とする産業の発展がそれに見合っていないという点である。教育部によると2023年の大学など高等教育就学率は60.2%(社会人入試、企業・団体派遣などを含むベース)であり、問題は高学歴者の就職難にとどまらない可能性が高い。
まず、若年層の失業率が上昇しやすい背景のひとつに、企業のリストラのしわ寄せが若年層に集中することがある。中国でも労働者保護の意識が高まりつつあり、ある程度の規模以上の企業などが会社都合で従業員を解雇する場合、勤続年数に応じた補償を行うことが義務付けられている。解雇の際のコストが低い若年層は雇用の調整弁として使われることが多い。
さらに、若年層の雇用吸収力が大きい産業が、政策の悪影響やコロナ禍、あるいは世界的需要減退によって不況に陥ったことが挙げられる。卸小売業やホテル・飲食業は「ゼロコロナ」政策による需要減退、教育や情報通信・ソフトウエア・情報技術サービス業は政府による規制強化によって大量解雇が相次いだ業種である。2021年7月には学習塾を全て非営利団体に移行させる規制が発表され、学習塾の9割以上が倒産を余儀なくされた。
巨大IT・プラットフォーム企業では規制強化による収益力低下と巨額の罰金などが響き、2022年以降、アリババ、テンセントなどがリストラを発表した。この他、中国版総量規制の導入を契機に、かつてない販売不振に見舞われた不動産業は大規模な人員整理を実施している。
もちろん、こうした状況は若年層に限られるわけではない。3年にわたった「ゼロコロナ」政策では多くの中小・零細企業(ほとんどが民営企業)が倒産を余儀なくされ、中低所得者層では「節約」や「最安値」が消費のキーワードとなっている。
住宅ローンの繰り上げ返済で消費が抑制
3つ目の構造的な要因は、不動産不況による家計のバランスシート調整の影響だ。
中国人民銀行によると、個人向け住宅ローン残高の前期差は、2022年4月~6月以降に急減し、足元では純減(返済超過)となることが度々生じている。主因は、住宅需要が大きく減少したことであり、現地報道によれば、繰り上げ返済も急増している。
家計にしてみれば、住宅価格の上昇期待が住宅ローン金利など購入コストを上回れば、購入意欲は高まるが、不動産不況によって全く逆のことが起きている。居住目的で住宅を購入した家計が、住宅ローンの繰り上げ返済のために、資産運用を減らしたり、消費を抑制したりしている可能性がある。