トンデモ医療を見分けるには、次の6つのポイントを押さえると良いと思います。①保険がきかず高額な治療法は危険、②「どのがんにも効きます」という文言を信用しない、③「免疫力アップ」という言葉にだまされない、④個人の経験がほかの人にも有効とは限らない、⑤細胞実験レベルのデータだけでは信用できない、⑥「がんの予防」に効果があるからといって「がん治療」にも効くわけではない。

がんと診断されたらショックでわらにもすがりたくなる気持ちはよくわかります。しかし、トンデモ医療にだまされてお金も健康も失うことのないよう、冷静に判断してください。

インフォームド・コンセントについては、日本でも定着してきているのですが、不適切な形でインフォームド・コンセントが行われている事例があります。不適切なインフォームド・コンセントの一例として、患者自身に責任を押しつける「自己責任押し付け型インフォームド・コンセント」があります。十分な説明がないにもかかわらず「効果が20%の抗がん剤A」「効果は30%だが副作用が強い抗がん剤B」「緩和ケア」といった選択肢だけが示されて、「どれにするか、次の診察までに決めてきてください」と患者に責任を押しつけるような形で行われるものです。どれにするかと言われても、患者は「選ぶことができない」というのが本音と思います。

がんを潰し切るのではなく共存しながら長生きする

また、「見放し型インフォームド・コンセント」と言って、「あなたの標準治療は終了しました。もう治療はありません。ホスピスを勧めます。当院での診療は終診になります」と見放し、追い出そうとする例です。多くのがん専門病院や大学病院などでもこのようなインフォームド・コンセントの事例が見られます。このように言われてすぐに納得できるでしょうか。

最近では、世界的な動向としても、シェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)に基づくインフォームド・コンセントの重要性が求められてきています。つまり、患者と医師が十分にコミュニケーションを取り、患者の意向も含めながら、患者と共同して、意思決定をしていく方法です。このような患者に寄り添うようなインフォームド・コンセントが広まることを願っています。

今は、治すことが難しいがんであってもがんと共存できる時代になりました。がん治療の目標はステージごとに異なります。早期のがんは、しっかり治して再発させないことが目標です。そのため、エビデンスに基づいた標準治療を頑張って受けることが正解です。

一方で、再発したがんを治すことは簡単ではありません。再発がんの場合、重要なことはがんを治すことよりも、より良い日常を生きることになります。がん患者は頭の中ががんでいっぱいになります。どうすればこのがんから逃れることができるか、朝から晩までそのことばかり考えてしまいます。すると、がんに怯えて大切な時間を失ってしまうことになるのです。

そうならないために、再発進行がんの場合は、がんとより良く共存するという視点が重要です。私の患者で乳がんが全身に転移していながら、抗がん剤を使って夢だった世界一周を実現した人がいます。毎週のように海外へ行って、最終的には世界を3周も回ることができました。

もしも彼女が自分の病状を理解せずにトンデモ医療に何百万円も費やしていたら、世界一周は実現できなかったでしょう。病気を正しく理解して、病状によってはがんと共存するという選択肢を持つことで、より良い日常を過ごすこともできるのです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

(構成=横井かずえ 図版作成=大橋昭一)
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