「バイデン氏は交代すべき」だが…

討論会での様子は衝撃をもって受け止められ、やがてメディアや民主党内でパニックが起きた。バイデン下ろしコールの大合唱である。

まず、ニューヨーク・タイムズが社説でバイデン氏の出馬撤回を呼びかけたのが注目され、あっという間に大統領は出馬を取りやめるべきという論調が作られた。不安を感じた民主党の議員も、下院を中心に同調を始め、その数は20人近くに上っている。大口の献金者が少しずつ離れているという報道もある。バイデン支持者でもある俳優のジョージ・クルーニー氏が退陣を呼びかけたことも話題になった。

2020年1月18日、アイオワ州教育協会(ISEA)立法会議にて、出席者と話すジョー・バイデン元米国副大統領(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

それに対しバイデン氏は、討論会後に大規模な記者会見を開き、あくまで続投の意思は変わらないことを強調した。確かにここでの振る舞いに不安な点は見当たらず、以前に戻ったように見えた。メディアもそれを認めたが、これが長続きするのか? あともう一期務められるのか? と、健康不安説は結局拭えていない。

「バイデン氏は交代すべきだと思う。でも代わったとして、次の人はバイデン氏と同じような影響力を持てるのか」

NY Future LabのZ世代シャンシャンの言葉が、アメリカ人の思いを見事に代表している。しかし、出馬撤回にはいくつもの大きな問題が立ちはだかっている。

政治生命を犠牲にしてまで代理出馬したくない

まず、大統領選まで4カ月を切っている。広い国土と多様な国民が住むアメリカでは、大統領選は1年以上かけて積み上げていくものだ。予備選もほとんど終わった今、資金調達から地方との調整まで、すべてがバイデン氏を中心に回ってきた。それを今から変えるのは容易ではない。

それ以上に大きいのは、代わりがいないことだ。何名かの名前が挙がってはいる。ブティジェッジ運輸長官、ウィットマー・ミシガン州知事(立候補は否定)、ニューサム・カリフォルニア州知事。そしてバイデン氏に最も近い継承者のハリス副大統領。でもそれぞれが一長一短で決め手はいない。

そもそもそんなに良い候補がいれば、最初からバイデン氏は出馬しなくてよかったのだ。そして彼らが手を挙げない理由は、ハンデを背負いながら今からトランプ氏と戦って、自らの政治生命を犠牲にしたくないからだろうとも考えられている。無理もない話だ。

また米国の専門家の多くは、今から候補者を交代すれば国内だけでなく国際的にもさらなる混乱を呼ぶとして、危険すぎると指摘する。