相続は公平性や節税だけでは解決しない

では、目に見えない「相続格差」を、どのように解決していけばよいのでしょうか。

世の中では、税理士というとお金の勘定ばかりしていると思われがちです。しかし、相続ほど人間の心が大切なものはありません。亡くなった方が築き上げた財産を、子孫にどのように分けていくかというのは、単なるお金の移動以上に重要なことと考えます。

私は相続専門の税理士として、数多くの相続の場面に立ち会ってきました。もちろん、財産の分け方をアドバイスすることはありません。それができるのは弁護士資格を持った人だけであり、税理士がそれをやると法律に違反してしまいます。あくまでも、こうすれば節税できるといった税務上のアドバイスをしたり、遺言書の作成のお手伝いをすることで亡くなった方の意思を伝えたりしています。

そうした業務を通じてつくづく感じたのは、相続の公平性や節税ばかり考えていても、それだけでは解決しない事柄が数多くあるということです。実際には、どうやっても相続は公平になりませんし、税金を安くするだけではいい相続にはなりません。いかに人間関係に配慮して、いい提案ができるかが大切なのだと実感しています。

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節税の「常識」が人間関係では「非常識」に

例えば、「夫が亡くなった場合、妻と子で相続したほうが節税になる」というのは、相続の公平性や節税の面からいえば正解かもしれません。しかし、人間関係や家族の平穏を考えるのなら、「夫が亡くなった場合、すべての財産は妻が相続したほうがよい」というのが正解です。

残された妻と子の人間関係を考えれば、妻がすべてを相続したほうがいいのです。この例に限らず、節税テクニックにおける「常識」が、実は人間関係では「非常識」である場合も少なくありません。

財産分配や節税テクニックが「技術」だとしたら、人間関係のテクニックは「心」の部分といってよいでしょう。私は、どちらにも目を配った「技術+心」で相続の仕事にあたってきたつもりです。

とはいっても、私だけが「心も大事ですよ」といってもはじまりません。一番大切なのは、実際の相続にあたる家族の方々です。その方々の考え方や心持ち次第で、よい相続にも、モメる相続にもなります。