私たちの限界を決めているのは「頭の中身」

「心の時計の針を巻き戻す実験」と呼ばれるこの研究は、物理的な時間を戻すことはできなくても、心の持ちようでいくらでも若々しく生きられるという事実を立証したことで、世界中の心理学者と行動経済学者から、老化と肉体の限界に挑戦する革新的な心理実験として絶賛された。これについてエレン・ランガー教授は次のように述べている。

「私たちの限界を決めているのは、肉体そのものではなく、むしろ頭の中身のほうだ」

つまり同じ70歳でも、その年齢をどう捉えるかによって若々しく生きることは十分に可能というわけだ。例えば何をするにも年齢を考え、年齢を意識している人は、身体的な状態とは関係なく70歳を「老いて何もできない年齢」と考えているため、受動的で依存的な生活を送ってしまう。反対に同じ70歳でも、年齢を聞いて驚いてしまうほど若々しい人たちは想像以上に多いものだ。彼らは自分の年齢を大して意識していない。ただ一生懸命体を動かし、新しいものを学び、趣味を楽しんで活気ある毎日を送っているだけだ。

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健康に年を取る秘訣は「身体年齢に固執しないこと」

したがって健康に年を取りたいのなら、自分の身体年齢にあまり固執しないことだ。70歳になろうが80歳になろうが、年齢とは関係なく「昨日より今日、今日より明日と少しずつ成長する自分」を念頭に置いて生きるのである。実際、延世ヨンセ大学哲学科の名誉教授キム・ヒョンソクは、「100歳まで生きてみたら60歳までの自分は未熟だったし、自分の人生における黄金期は、65歳から75歳だった」と語っている。

また、エレン・ランガー教授の実験からもわかるように、年を取っても可能なかぎり自力で日常生活を送ったほうがいい。心の時計の針を巻き戻す実験に参加した老人たちは、そのほとんどが子どもと同居していた。彼らにとっては自宅も自室も完全には自分のものではなく、いつからか身の回りのことも家族に頼りきりになっていた。自分で決断したり実行したりすることがほとんどなかったのだ。そうした受動的で依存的な人生では、どうしたって無気力になる。

実際にアーノルドという被験者は、実験に参加するまで何もやる気が起こらないし、体を動かすことは何もしていないと答えていた。ところが彼は1週間、身の回りのことを自分でしなければならない環境に置かれると、食事の準備や後片づけを進んでやるようになった。心の時計を20年前まで巻き戻し決定権を手にしたら、無気力な人生から脱して自発的で能動的な生活を送れるようになったのだ。このように人生の舵を自ら切っているという感覚、すなわち自らの人生の主導権を握り、それを行使しているという感覚は、人間にとって大変重要な人生の原動力になる。