野党にとって都知事選は「捨て選挙」だった

もちろんこれまでも、それなりに著名で識見のある人物が何人も、現職への対抗馬として都知事選に名乗りを上げてきた。しかし、最近の都知事選を振り返れば、彼ら彼女らが現実に「現職を脅かす存在」として認知されたことは、実はほとんどなかったと思う。

なぜそうなってしまうのか。原因は「擁立の枠組み」にあったのではないか。

都知事選では過去、市民団体が主導して擁立した人物が「完全無所属」で出馬し、各政党は後景に引いて支援する、という形で支援の枠組みがつくられることが多かった。確かに「都民の幅広い支持を得る」ためには、こういう枠組みにも意味があったかもしれない。

だがこの枠組みは、結果として政党の存在を希薄にした。「選挙結果に誰が責任を持つのか」が曖昧になり、都知事選で敗北を重ねても、誰も責任を取る必要はなかった。多少厳しい言葉になるが、野党は「勝てないことが見えている」都知事選を事実上捨てて、自らの主張を訴えることのみに満足するだけの選挙戦を漫然と続けてきた、と言わざるを得ない。

小池百合子東京都知事、2017年6月28日(写真=江戸村のとくぞう/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

無所属だがあえて「立憲色」を出す

今回の蓮舫氏出馬は、こうした過去の都知事選とはかなり異なる状況を作り出しつつある。蓮舫氏がどこから見ても「立憲民主党ど真ん中」の人物であるからだ。

今回の都知事選でも、野党統一候補の擁立を目指す市民団体や野党各党の代表者が「選定委員会」を設けており、蓮舫氏の名前も早くから取り沙汰されていた。しかし、蓮舫氏が出馬表明会見の場所に選んだのは立憲の党本部。手塚仁雄・同党東京都連幹事長が司会を務めたものの、会見には基本的に蓮舫氏1人で臨んだ。

もちろん蓮舫氏は、その後選定委員会の場に駆けつけたし、出馬にあたっては立憲を離党する考えのようだ。これを「立憲隠し」と批判する向きもあるが、「無所属での出馬」は多くの首長候補が昔から当たり前に行ってきたことであり、これらの批判は難癖以外の何ものでもない。

むしろ「立憲ど真ん中」の蓮舫氏が出馬することも、出馬会見を党本部で行ったことも、どちらかと言えば「政党色を出す」方向に振れているとさえ見える。こういう形になったのは「出馬情報が事前に報じられたため」との情報もあるが、結果として良かったのではないだろうか。