「本物」のアニソンをブラジルにも届けたい

誰よりものめり込んだ特撮ヒーローとアニソンだからこそ、クルーズさんは自らが水先案内人となってブラジルのファンのコミュニティーをもっとクールにしたいと意気込む。クールに変えていくには質の底上げが必要だ。

「ブラジルの特撮とアニソン好きにもっと日本の本物を捧げたいという気持ちがあります。80、90年代にブラジルで発売されていた特撮ヒーローの雑誌は紙質が悪く、写真も日本の印刷物からの複写でクオリティが低かったんです。今回、僕たちがリリースした『決定版ジャスピオン図鑑』の図版はすべて東映さんから提供していただきました。日本でも未発表の写真が多く、特にブラジルのファンは見開き大の写真に圧倒されたと思います」と自信をのぞかせる。

一方、歌については、その環境を嘆くこともある。

「ブラジルの地方都市で歌うこともありますが、それらの街では最低限の環境が整っていない場合もあるんです。招待されて歌いにいったら音響設備がなかったり、会場が学校の校庭で、観衆を自分で歩き回って呼び集めなければならないこともありました。悲しくなりますよ」

アニソンの血潮を受け継いだアーティストになる

アニソンの本場日本と比べて、ブラジルの業界規模が微々たるものであることは周知の事実だ。しかし横浜アリーナで歌った経験があるからこそ、自分の歌声を聴衆に届け、アニソン人気を高めるためにイベント主催者にもプロ意識を持ってほしいと願う。

「ブラジルで人気のアニソンだけを歌っていては、さらに大きなステージへとは飛び出せず、自分もアニソンや特撮のコミュニティーも成長できません。アニソン歌手でありながら、アーティストとしても成長したいので、架空の特撮ヒーローを想定した日本語のオリジナル曲も作り、YouTubeで世界に向けて発信しています」

目標はイベントを盛り上げるだけの歌手ではなく、ブラジルでアニソンの血潮を受け継いだアーティストとして確立することのようだ。

©Ricardo Cruz
クルーズさんの日本語オリジナル曲「マシン・ドリーマー」PVより

歌に言葉の壁は存在しない

出版企画も含め、クルーズさんは今が自らの夢をさらに大きく膨らませるチャンスだと感じている。

筆者撮影
「アニメ・シンフォニー」終演から2日後。その充実を語ったクルーズさん

「ブラジルでは80、90年代に特撮ヒーロードラマを見て衝撃を受けた世代がいまや40代で、自分のお金で好きなものを買える年齢になっているんです。親になって自分が憧れたヒーローを子供と分かち合いたいという人もいますからね」

なるほど、今はブラジル特有の日本特撮ブームから世代が一巡し、人気再燃を仕掛けるには絶好機なのかもしれない。

「歌については、K-POPの世界的人気が証明するように言語の壁はもはや存在しません。アニソンをもっと広い層に聞いてもらいたいですし、僕もブラジルでその輪を広げていきたいです」

大人世代のノスタルジーを誘い、人気のアニソンで若者を惹き付け、アーティストとしてさらに花開けば、自分に付いてきてくれるオタクたちももっとクールな存在になれる。出版と歌のほかにもイベント司会者、オンライン日本語講師などさまざまな活動を忙しくこなすクルーズさんにはそんな思いがあるのかもしれない。

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