中国海警に負けたことはない
――「海保を軍事組織に」という意見は、中国の海保に当たる「海警」という組織が2018年に人民解放軍の武装警察部隊の配下に編入されてから、より強まっています。
【奥島】「海保も軍隊にならないと、中国海警に対処できなくなる」というのはもっともらしい話に聞こえるかもしれませんが、これもおかしな話なんです。
中国海警局が中央軍事委員会、つまり軍配下の組織となってからこの6年、海保は一度たりとも尖閣周辺で海警に後れを取ったことはありません。常に優位を保っています。
もちろん、中国海警の船は増えて大型化してきていますし、武装も強化されてきていますが、「相手が軍隊だから負けてしまう」というのは全くのナンセンスだと思います。ある時中国側の組織が「軍になった」からと言って、それだけで急に実態が変わるわけではありませんし、実際、急に強くなっているわけではありません。
例えば、中国海警の船が備えている最大の武器は76ミリ機関砲で、これは世界のコーストガードの中でもかなり大きいタイプです。一方、海保は40ミリ機関砲ですが、口径だけを比べて「中国のほうが強い、負けてしまう」ということではないのです。
打ち合いになっても中国の海警には負けない
いうまでもなく、撃ち合いになるような事態はなるべく避けたいと考えていますが、仮に撃ち合いになったとしても十分勝算はありますし、相手も「軍事組織になった」とはいってもロケットランチャーやミサイルを装備しているわけではありません。海保も海警も、実際の軍隊と比べれば小規模の同程度の武器しか持っていないんです。
ですから、中国と競り合うために軍隊にすべきだというのは全くナンセンス。むしろ、軍にすることによるマイナスのほうが大きい。国益を損なうことになります。
――その点は新著『知られざる海上保安庁 安全保障最前線』(ワニブックス)でも繰り返し述べられています。
【奥島】つまるところ、「餅は餅屋」なんです。各組織の得意分野を融合させることにより国家は最大のパフォーマンスが発揮できます。「軍隊を忌避している」とか「海上自衛隊と仲が悪いんだろう」とか揣摩臆測を並べる人もいるのですが、いずれも実態とはかけ離れています。