「事足りる」ならOKを出そう

任せられない第2の理由は、ついつい完璧を求めてしまうからです。

「部下に何かをお願いしても、いつも出来がイマイチで、結局は自分で手直ししないといけない。面倒なので最初から自分でやることにした……」。このパターンに陥っている人が多いのです。

まずは、「部下の仕事が100点ということはありえない。70点で上出来」と肝に銘じてみましょう。

資料作成を任せたら、内容は良いけれども、読みづらいフォントや色が使われていたとします。この「足りない30点」が気になっても、自分で直したり、いちいち指摘したりしてはいけません。部下は、「細かい人だな。自分なりに工夫してもムダだ」と思い、やる気を失います。「これで事足りるかどうか」という1点だけを重視し、事足りるならOKを出しましょう。

細かいところに気がつく人は、特に「体裁を整える」ことに重きを置きがちです。しかし、体裁への過度なこだわりはムダなコストになりえます。

もし重要な部分が足りていないなら、すぐに指摘せず、対話を通して本人に気づいてもらうのがベストです。「こんな小さい字じゃ読めないよ」ではなく、「50代以上のお客様向けに作ってくれたんだね。どうしたらもう少し見やすくできるかな」という具合です。

部下に仕事を任せられない第3の理由は、自分でやったほうが早いから。確かにその通りです。しかし、マネジャーには物事を中長期で考える視点が求められます。たとえ話をしましょう。

あなたがリンゴを剥くスピードは、部下の3倍だとします。目の前に3つのリンゴがあったら、あなたが剥いたほうが早いのは間違いありません。でも、リンゴはこれから300個に増えるかもしれません。いまから部下にリンゴを剥く経験をたくさん積ませて、部下の作業スピードを上げたほうが賢明でしょう。職場でも同じで、「自分でやったほうが早い」という考えで乗り切れるのはいまだけです。今後、業務が増えれば、確実に回らなくなります。

部下に仕事を任せると、最初は教える手間がかかります。でも、それは「最初だけ」と割り切ってください。

「経験曲線効果」という理論があります。ほとんどの業種では、新しい作業に従事するときでも、経験を数回積むだけで習熟度が当初の2倍になり、教育投資をすれば生産性はさらにアップするというのです。任せるのが不安でも、リスクマネジメントさえできていればなんとかなるものです。

部下は必ずミスをします。あなたもたまにはミスをします。「致命的なミスでなければ、挽回すればいい」「必ず挽回できる」と考え、「適当力」を高めましょう。

鉄則1
70点でOK。適度なゆるさがカギ

LESSON2 自分でやったほうが早くても任せるべきワケとは

プレイング3割、マネジメント7割

なぜ、わざわざ「任せる力」を磨くのか、改めて考えてみましょう。自分がラクになるから、任された人が成長できるから――実は、それだけではありません。

上級管理職の多くがマネジメント専任のマネジャーである一方で、部下と同様の仕事を担いながらマネジメントも兼務する課長級の管理職を「プレイングマネジャー」といいます。部下を1人以上持つ人のうち、実に9割近くがプレイングマネジャーなのです。

部下のマネジメントをしながら、自分のプレイング業務もこなさなくてはならない。もっと人に仕事を任せたいが、まだ任せられない。メンバーと対話もしなければならないが、時間がない……そんな“忙しすぎるリーダー”が圧倒的に多いのです。

興味深いデータをひとつ紹介します。プレイングマネジャーが自分のプレイング業務に割く時間を30%程度に抑え、自分の業務時間の70%をマネジメントに充てていると、チーム全体の生産性が最も高いというのです。反対に、プレイング業務が5割を超えると、チームパフォーマンスが急落することも判明しています。

もしあなたが業務時間の半分以上をプレイングに費やしているなら、そのプレイング業務はどんどん部下に任せましょう。そのかわりに、もっとマネジメント業務に時間を使うのです。そうすれば、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

ただしこの調査では、専任マネジャーが率いるチームは相対的にパフォーマンスが低い傾向が見られました。つまり、部下と同じフィールドに立っているプレイングマネジャーこそ、大きな成果を上げる可能性を秘めているのです。

優れたマネジャーは、部下に任せるべき業務と、自分がやるべき業務をしっかりと見分けています。やり方や進め方が完全に決まっているもの、他部署や社外との連携が必要ないもの、ある程度の職務経験があれば一人で遂行できるもの……これらの“基本業務”はマネジャーが行う必要はありません。具体的には、会議の進行、会議資料の作成、既存顧客のサポートなどは積極的に部下に任せていきましょう。