恐れていたことが始まる

彼の実家と同じマンションに引越ししてからというもの、義母から毎日のように呼び出されるようになった。用事の内容は、洗濯物や掃除などの家事から、「あれ買ってきて」という使い走りまでさまざま。そして、恐れていたことがついに始まる。

いつものように電話で呼び出されて行くと、義母から「今日は優芽子ちゃんのタメになるお話をしてあげるからね」と言って“聖書”を渡される。

行田さんが戸惑っているのも気にせず、「はい。じゃあ、00ページ開けて~」と始めようとする姑に、「お義母さんすみません。私、宗教に興味ないので……。○○くんにもこういうことはしなくて良いって言われてるんです」と言うと、

「それ、○○ちゃんの本心と違うわぁ。優芽子ちゃんに気を遣っているのが分からない? 可哀想な○○ちゃん」

とバッサリ否定。その後も何度も断っているのに、固くて冷たいフローリングの上で正座をさせられ、約1時間半、義母に“聖書”を復唱させられた。

それから数日後。再び義母から呼び出しがあったため義実家へ行くと、「おぉ、来たか」と義兄が出迎えた。義母曰く、行田さんのためにわざわざ東京から来たのだという。

「お義兄ちゃんからたくさん学んだらいいわあ。優芽子ちゃん変なことばっかり言うからお義母さん本当に悲しい!」

いつもテンション高めの義母がこう言うと、「優芽子ちゃんの中は『罪』だらけなんだろうな」と義兄。

その日も聖書を読み、フローリングの上で3時間正座し続けた。

ところが終わりが見えたとき、行田さんは少し足を崩してしまう。瞬間、行田さんの耳に鋭い音が聞こえ、しばらくして右の頬に激痛が走った。右の頬を抑える間もなく、今度は左の頬に激痛が走る。

「優芽子ちゃん、駄目だよぉ。俺がせっかくこんなにも愛を持って優芽子ちゃんの中の罪を償うお手伝いをしているのに〜! 何でそんな態度するの? おかしいでしょ〜!」

義兄がビンタしたのだ。義兄は涙を流しながら笑っていた。義母も笑っていた。何度か殴られた後、行田さんは義実家に閉じ込められ、その日は自宅に帰してもらえなかった。

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「赤く腫れ上がった顔を彼に見られないためだと思います。私は自宅から数分しか離れていない場所で、恐怖に怯えながら気を失うように眠りました……」

摂食障害

義兄に殴られてからというもの、行田さんは常に何かに怯えるようになった。

「義兄は東京に帰った!」と自分に言い聞かせても、「またいつ突然帰省するか分からない……」と思うと怖くて、自宅に閉じこもりがちに。就いたばかりの仕事も退職してしまった。

「義兄に殴られた日、彼は会社の研修で不在。それを知っての事だと後で分かりました。また次、彼が数日間仕事などで不在の時が来たらと思うと恐怖がずっと拭えず、私を苦しめました」

精神的に不安定になった行田さんは、その頃から摂食障害を起こし、持病の肝臓病を悪化させてしまう。それに伴い44kgほどだった体重が、5カ月ほどの間に80kg台まで激増した。

彼は心配してくれたが、行田さんは義母と義兄からの仕返しが怖くて言えなかった。

それでも義母からの呼び出しがあれば義実家に行く。義実家には義母の他に、自称“パニック障害”でニートの義弟(当時26歳)がいた。義兄に殴られて以降、義母と義弟の機嫌を損ねると、髪の毛を引っ張られたり木の棒で殴られたり蹴られたりするようになった。