富は小さなよろこびを味わう能力を奪う

お金や、それによって得られる欲望の達成から得られるよろこびは、「へドニア」(快楽主義)に属するよろこびで、特に短い間しか持続しない傾向が強いようなのです。

バーゲンセールのバッグでなく、その100倍以上の価額のブランド品を買ったり、中古のボロ車から最新性能の新車に乗り換えたりすれば満足感が高まり、幸せになると思うかもしれません。

でも、欲しいものを手に入れ、夢が実現すればすぐに「あたりまえ」となって、幸せは長続きしません。むしろ無駄遣いをしてしまったと後悔するかもしれません。

「サイエンス・オブ・ハピネス」の研究をリードする心理学者でカリフォルニア大学教授のソニア・リュボミアスキーは「何かを持てば幸せになる、何かになれば幸せになる」という思い込みは「幸せの神話」だといっています。神話であって現実ではないということです。

また富は人々に最高の経験をもたらすが、小さなよろこびを味わう能力を奪うとも語っています。

いまも私の心を温める母を連れ出したハワイ旅行の思い出

食欲や性欲や所有欲などの欲望を満足させるへドニアの幸福は長続きしません。それより行ったことのない場所に旅行するとか、友人やパートナーとの休暇や外出といった「経験」にお金を使うことは思い出を豊かにします。

また、自分の成長や子どもへの教育にお金を使うことは、自分の心を豊かにしてくれるだけでなく、将来の豊かさをもたらしてくれる投資です。

たとえば親しい友人たちと一緒に旅行や食事をすれば、共通の経験を分かち合うことができます。私も大学時代の親しい友人四人と故郷の温泉に行った旅の思い出は、そのうちの二人がなくなってしまったいまは、かけがえのない思い出となっています。

母親を連れ出したハワイ旅行では、彼女がどんなによろこんでくれたか、母がなくなったいまも私の心を温めてくれます。

写真=iStock.com/Maridav
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安定的な収入が確保できることは必要ですが、いまを充実させるように賢くお金を使うと人は幸福になり、長い目で見ると将来の人生の成功の可能性を高めます。

無駄遣いや、バカな浪費でなく、私は幸せな人生のためには「無形資産」への投資が必要だと思っています。貯蓄や不動産のような有形資産への投資ではなく人間関係、健康、知識・スキル、教育などの無形資産への投資です。

こうした無形資産への投資――無形資産を増やすための行動こそ「与える」ことなのではないでしょうか。

人助け、感謝、応援などを与えることが人間関係を豊かにし、自分や家族への教育が、将来につながる無形の資産となるのです。

利他的行動は将来への投資なのです。