障害者をめぐる議論が噴出する背景
近年起こっている、障害者に関する主な出来事を下記にリスト化してみた。本表の事例を追っていくと、今回のトラブルの背景にある、障害者を巡る日本社会の意識や制度の変化が見えてくる。
2021年4月 車いすのコラムニスト、伊是名夏子さんがJR東日本の無人駅で下車しようとして駅員から乗車拒否をされたことをブログに投稿し、物議を醸す
2021年7月 ミュージシャンの小山田圭吾さんが、学生時代に障害者いじめを行っていたことが問題視され、東京五輪の開会式の作曲担当を辞任
2022年5月 プロゲーマーのSaRaさんがゲームの生配信中に障害者への差別発言を行い、批判を浴びる
2023年1月 障害者手帳を持つ人物がTwitterに、“介助者”として施設に同行することで割引を受けられるサービスを開始すると投稿して批判を浴びる
2023年3月 車いすギャルのさしみちゃんがエレベーターで割り込みされた動画をアップして批判を浴びる
2023年4月 広島マツダの従業員が障害者の真似動画をTikTokに投稿して炎上
2023年8月 重度障害の作家・市川沙央さんが重度障害者を描いた小説『ハンチバック』で芥川賞を受賞
2024年1月 知的障害者専用のグループホームが、近隣住民の反対によって、横浜金沢区での開設を断念
2024年3月 車いすインフルエンサーの中嶋涼子さんが、イオンシネマの対応をSNSに投稿し、イオンシネマ側は謝罪文を公表
炎上したり、議論が巻き起こったりしている事例は、大きく2つに分類される。
1.健常者の障害者に対する態度や発言が問題視されたもの
2.障害者の行動が問題視されたもの
2023年以降、問題が起きる頻度が増えているように見える。外出が制限されているコロナ禍においては、問題自体が起きづらかったし、顕在化しづらかったという事情がある。
コロナの問題だけでなく、障害者自身の発言機会が増えたり、障害者のインフルエンサーが注目を集めたりするようになったという変化も大きいように思える。その影響で、2のケースが目立つようになってきた。なお、今回のイオンシネマの事例は、1、2の両方に関わっているが、こうしたケースは他にも見られる。
社会通念や社会制度が急速に変化しつつある一方で、その変化に違和感を覚えている人、変化を受容しづらい人も少なからずいるのが現状だ。そのギャップが、障害者をめぐる紛争や議論が起こりやすい環境をつくり出していると言える。