販売員が売り上げを稼ぐのに、知能は役に立たない

販売員の場合を考えてみよう。ここではメタ分析という手法を使っている。この種の調査での最大規模なもので数十の以前の研究からおよそ4万6000人の個人データを集め、検証するものだ。

ビジネス界の実業家を研究するのは、条件を均一にできないから困難だ。そのため、多くの場合結果がはっきりしない。意思決定がよかったか悪かったかは何年もの間わからないかもしれない。

その点、販売員を対象とする研究は非常に魅力的だ。少なくとも、「売上」という計測できる明確な対象を即座に生み出すからだ。それでも際限なく研究の邪魔となるようなものが現れるかもしれない。セールスパーソンたちは何度も上司に対し雄弁に言い訳をするからだ。しかし、時間をかけて多くの被験者を対象とすればこうしたノイズは消えていくものだ。

このメタ分析で部下のセールスパーソンを評価するよう上司に依頼すると、上司の評価と部下の知能との間に比較的高い相関関係を見いだせる。上司は賢いセールスパーソンはよりよい成果を出すセールスパーソンだと考えがちだ。

しかし、研究者が実際に販売成果とセールスパーソンの知能を比べてみると、その間には相関関係を見いだすことはできなかった。販売員がどれほど成果を上げるかを予想するうえで知能はほとんど役に立たなかった。どんなものであれ販売員を優秀にするものは、知能以外のもののようだ。

次の研究は「IQが高い人は競馬も強いのか」

この結果をみて、販売員の管理者自身が勘違いをしていることには驚かされる。一般に販売員の管理者は、部下のパフォーマンスを客観的に知りたいと思っており、かつ一定の基準で評価していると世間では思われているだろう。

しかし、実際はそうではないようだ。この調査結果は、少なくとももう一つの大規模のメタ分析でも裏づけられている。必然的に知能がよりよい業績をもたらすという見方は、一般の人の心に強くしみついているので、ときには現実に目をつぶってしまうのかもしれない。

ビジネスと共通点が多い活動に焦点を絞り、現実の世界での業績を詳細に調査研究したものがある。それは、競馬予想だ。関連事実を調査研究し、かけ率(以下オッズ)を予想し、お金をどの馬にかけるか決定する。その本質は経営とさして変わらない。

研究者たちは競馬場に行き、被験者を募った。発走予定時刻でのオッズ予想能力に基づいて、こうした被験者を専門家か、非専門家かに分類した。ここでの専門家の定義は、オッズ予想で断然すぐれた能力を示したものを指している。

しかし、通常このような場合に大きな違いを示すと思われるような要素である、競馬での経験年数、正規教育の期間、職業的地位、そしてIQをみても、両グループ間の平均値には大きな違いはなかった。両グループの知能の平均値と偏差値が同じであるばかりか、人口全体と比べてもほとんど同じだった。専門家も非専門家もとくに賢いわけではなかった。

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