かつて両者は協力し合っていた

著者で歴史家のペギー・オドネル・へフィントンは、子どもを持たずに働く女性であり、「そもそも私が、子どものいない女性の価値や功績について書きたかったのは、自分たちのことをもっと評価してほしい、と思ったからでもある」と終章に記している。職場で、子どものいない人(とりわけ女性)に、子育て中の親のさまざまなタスクの肩代わりが求められることを、苦々しく思ったこともあったという。

しかし、執筆を進めるうちに、いかに母親や家族、子どもたちへのケアが少ないかを思い知り、子育て中の人々に対する態度が和らいだ。母親とノンマザーは「vs構造」によって分断されるべきではなく、次世代を育てるプロジェクトの一員として協力し合うべきなのだ――かつての世界がそうだったように。

システムが機能するように設計されていない

へフィントンは、アメリカ史を紐解きながら、過去の女性が母親にならなかった理由を6つの章に分けて紹介している。

1)いつも選択してきたから(避妊と中絶)
2)助けてくれる人がいないから(コミュニティの希薄化)
3)すべてを手に入れるのは無理だから(キャリアとの両立の困難さ)
4)地球環境が心配だから(人口増加と地球温暖化)
5)物理的に無理だから(不妊治療)
6)子を持つ以外の人生を歩みたいから(チャイルドフリー)

丹念なリサーチに基づいた、それぞれの時代と場所を生きる女性たちの息遣いが聞こえてくるかのような豊かな人物描写による各人のストーリーが伝えてくれるのは、現代の女性が子どもを持たない理由の多くが、過去の女性たちと共通するものであるということ、そして驚いたことに、「現代生活のプレッシャーや不安や危険に対する考慮が不十分なことを考えると、親にならないという決断は、完全に合理的であると言えなくもない」ということだ。

システムが機能するように設計されていないのだから、たとえ母親になって社会が要求する役割を果たしたとしても、いつまでも勝つことができない。このことは、日本に生きる私たちにとっても、他人事ではない。歴史の中で、ときに静かに抵抗し、ときに声を上げて意見を表明し団結することで自由の権利を獲得してきた一連の流れを知ることは、私たちにとって大きなヒントになるに違いない。

幸福度の低さは子育て支援政策の遅れが原因

日本ほどではないにせよ、アメリカでは子どもを産まない女性が増えている。生涯に産むと予想される子どもの数(合計特殊出生率)は1.7人であり、2.1という人口置換水準を下回っている。

アメリカの成人を調査した結果、親である人は、子どものいない人に比べて12%も幸福度が低いというデータが得られた。北欧のような、親である人のほうが幸福度が高い国との違いは、子育て支援政策の遅れが原因であることを著者は指摘している。

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