契約解除の条項にあった「大谷の人間観」

ただ「勝ちたい」の無垢な思いから始まったドジャース移籍に、大谷はそれを担保するための「特記事項」を書き込んでいる。ウォルター・オーナーとアンドルー・フリードマン編成本部長(47)の現体制維持を求める人事の条件だ。

「ロサンゼルス・ドジャースに入団すると同時に、メインのこの二方(オーナーと編成本部長)と契約するという形ですし。そこがもし崩れるのであれば、この契約自体も崩れることになる」

エンゼルス在籍時には指揮官が6年で4度も変わりGMの交代もあった。さらには、モレノ球団オーナーが売却を示唆するという不安定極まりない状況を経験している。

傘下の下部組織では有望な若手もなかなか育たず、組織の弱体化は上層部の揺らぎから来るということを大谷は思い知った。「二方」のどちらかが欠けた場合、自ら退団できるオプトアウト(契約解除)の付帯条項を求めたのも何ら不思議ではない。

潤沢な資金に頼らずトレードでの戦力向上も図るのが、フリードマン氏だ。マイナーの指導体制も整備し、効果的な野球組織作りに長ける。

大学時代に肩の怪我で野球を断念。その苦い経験を仕事に生かしてきた。低予算の弱小チームだったタンパベイ・レイズのGM時代には就任から3年目の08年にワールドシリーズ進出を果たしている。チーム躍進に大きく貢献していた岩村明憲は「選手の心情に寄り添える人」とフリードマン氏を絶賛した。

大谷が希望した契約解除の条項に彼の人間観を感じ取った。「世紀の契約」には、「正しいやりかた」を信条とする、信頼できる両氏と一蓮托生いちれんたくしょうで世界一を目指すという文脈がある。

社会への貢献という共通項

1954年に出版された『ドジャースの戦法』の序文には、時のウォルター・オマリー球団オーナーが記したこんな一節がある。

「ここ数年、ドジャースはアマチュア野球の助成のために、年間5万ドルを投じてきた。この金額の大部分は、少年たちの草野球の道具を買いととのえることに使われる」

分厚い時を経て、大谷はウォルター・オマリー氏の文をなぞってみせた――。

去る11月9日、大谷は更新した自身のインスタグラムで、日本全国のすべての小学校2万校にジュニア用グラブ3個ずつ、計約6万個を寄贈することを発表。「このグローブが、私たちの次の世代に夢を与え、勇気づけるためのシンボルとなることを望んでいます」と思いを綴っている。

大谷翔平は新天地にドジャースを選び、ドジャースは名門にふさわしい大谷翔平を選んだ。

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