「社員は20人くらい、ソフトウェアの販売をしています」

「初めまして、7番のひろこです」

と言って頭を下げると、まずは知広さんからいろいろ聞かれた。無難な質問ではなく、私が自己紹介文に書いた仕事や子どものことをきちんと読んだ上での問いであることがわかったので、私も真面目に答えた。

続いて私から知広さんに質問。

「いつ起業されたんですか?」

「33歳の時。ソフトウエアの販売をしています」

もう起業して10年近く。若い時からすごいなぁと素直に感心した。

「競争激しい世界で大変ですよね?」と尋ねると、彼は「めっちゃ激しいです」とうなずきつつ、

「でも大変なのは想定内ですからストレスは全然ないですね。別にやらされているわけじゃないから。自分で全部決めているから。社員が20人くらいいますけど、たとえ誰かが辞めても、売り上げが落ちても……まあ落ちることはあまりないけど、とにかく全てが自分の責任なんで。納得できるからストレスないですよ」

淡々とした口調で、何となく壁を感じる。

「離婚してから10年間は、恋愛なしですか?」

「私も〝経営者〟みたいなものですけど……」

笑って同調し、打ち解けようとしてみたが、「ですよね」と知広さんは真顔。私のプロフィールを見ながら、

「ひろこさんは子育ても終わりで、これから仕事しながら自由な時間を満喫する感じなんですよね。離婚してから10年間は、恋愛してないってことですか」と聞かれた。

「仕事が忙しかったから」と私がつぶやくと、知広さんは「自分の時間なしですか?」と目を見開き、「それはがんばりすぎだなぁ」と呆れたように言う。

「だってそうしないとまわらないでしょう。仕事って」と、私。

すると知広さんは足を組み、膝を抱えるように両手を組むと、首をかしげてこちらを斜めに見ながらこう言った。

「僕は仕事は18時までと決めているから、そこまでしかしない。仕事なんて際限ないんだから、やろうと思えば朝まででもできるでしょ。あなたの場合は結局自分が仕事をしたいから、『そうしないとまわらない』ってボヤいているだけでしょ。締め切りに追われるのも、追うのも自分次第なんじゃないですか」