待望の新薬が登場するも誰でも使用できるわけではない

軽度認知障害は「MCI(Mild Cognitive Impairment)」と呼ばれ、発症の5年ほど前から始まります。正常と認知症の境界で、認知機能は軽度に低下しているものの日常生活は自立できる状態。前述したように75歳で発症する場合は、70歳頃から始まります。「認知症だと周囲に迷惑をかけるから」と、すぐに退職を考える人もいますが、軽度の認知障害の段階であれば、さまざまな工夫をすることで、仕事はしばらくは継続できるはずです。

アルツハイマー型認知症は、早期に診断して治療を行うことが大切です。早期発見により発症を数年先送りしたり、進行具合を抑えたりすることができるといわれています。

今年9月、軽度認知障害(MCI)の段階から投与できる待望の新薬「レカネマブ」(保険適用)が厚生労働省に承認されました。既存の薬は症状の進行をゆるやかにする薬でしたが、「レカネマブ」は原因となるアミロイドβを取り除き、初期段階から進行を抑える薬です。

嬉しいニュースとして取り上げられ、期待が寄せられていますが、現時点では使える施設や使用可能な人が限られます。例えば副作用が現れた場合に対応できる医師の在籍、アミロイドβの蓄積を確認するためのPET検査、副作用としての微小出血の対応のためのMRI検査などが必要となり、それらの条件を満たした医療機関のみでの使用となっています。

また、使用できるのはアルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)もしくは軽度のアルツハイマー型認知症のみが対象で、なおかつアミロイドβが陽性の場合のみ。PET検査でアミロイドβが陽性になるのは、軽度認知障害(MCI)と診断された人のうち約60%。アルツハイマー型認知症と診断された人でも5人のうち3〜4人は新薬が適応されますが、それ以外の陽性にならない人は適応とはなりません(図表1)。M美さんの例も本人は使用を希望されたのですが、残念ながらアミロイドβが陰性で適応になりませんでした。

※遺伝性アルツハイマー型軽度認知障害を除く

認知症全体でみるとごくわずかの人しか当てはまらず、希望したからといってすべての人が使用できるとは限らないのです。

※赤く描出されたところがアミロイドβの沈着部