12月は忘年会などでお酒を飲む機会が多い。産業医の池井佑丞さんは「気温の低下と日照時間の減少で、アルコール消費量が増えるという調査結果がある。お酒が好きで比較的強い人、若い頃と同じように飲んでいる人は、アルコール依存症に気をつけたほうがいい」という――。
ジョッキに注がれるビール
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

気温の低下・日照時間の減少でアルコール消費量は増加する

12月に入り、クリスマスや忘年会、帰省など、楽しみなイベントを予定されている方も多いのではないでしょうか。そこで気を付けていただきたいのが、お酒の飲み方です。

東京消防庁のデータによると、毎年1万人以上が急性アルコール中毒で救急搬送されています。そして、月別で見ると12月の搬送人数は一年で最も多くなります。(東京消防庁「他人事ではない『急性アルコール中毒』」)これは12月にはお酒を飲む機会が増えることが原因と推察されますが、そもそも冬は飲酒量が増加しやすい季節であることはご存じでしょうか。

米国肝疾患研究協会の調査では、“平均気温の低下・平均年間日照時間の減少”が起こると、“一人当たりの年間アルコール消費量は増加する”ことが明らかになりました。また、寒冷気候と大量飲酒や暴飲暴食者の有病率との相関も示されました。(Meritxell Ventura-Cots, et al.v:Colder Weather and Fewer Sunlight Hours Increase Alcohol Consumption and Alcoholic Cirrhosis Worldwide, Hepatology. 2019 May;69(5):1916-1930.)

一時的な体内温度の上昇を求めて飲酒量が増えがち

私たちが食べたり飲んだりしたものは、胃や腸で消化・吸収され、栄養分が代謝されるとき、その化学反応に伴い熱が生じます。飲酒時も同様で、お酒に含まれるエタノールは胃や腸から吸収された後、肝臓で代謝され、分解される際に熱が生じます。とはいえ、私たちの体には体温を一定に保つ仕組みが備わっていますから、飲食によって大幅に体温が上昇することはありません。

お酒を飲んで体が温まったと感じるのは、体内で生じた熱に対し、脳の視床下部にある体温調節中枢が「熱い」と判断するためです。お酒を飲んで暑く感じたり顔や手足が赤みを帯びたりするのは、熱を逃がそうとする体の一時的な反応です。

つまり、お酒を飲んでも体温は上がらないものの、寒い季節になると一時的な体内温度の上昇を求め、飲酒量が増加傾向にあるということが言えます。

厚生労働省では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を、1日あたりの純アルコール換算で女性では20g以上、男性では40g以上としています。20gの場合ですと、ビールでは500ml、25度焼酎では110ml、ワイン2杯、日本酒1合弱程度が相当します。

がんや高血圧、脳出血、脂質異常症などのリスクは、飲酒量に比例して上昇することがわかっています。また、死亡(すべての死因を含む)、脳梗塞、虚血性心疾患のリスクについては、女性では1日のアルコール摂取量が22gを超えると優位に高まることもわかっています。(厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方」2023年3月版)