「学ぶ力」がなければ勉強はできるようにならない

知能が高いのに学力がそれほど高くない子がいるが、それをアンダーアチーバーという。その反対に、知能はそれほど高くないのに学力が高い子もいて、それをオーバーアチーバーという。勉強ができるかどうかは知能の問題だと思われがちだが、アンダーアチーバーやオーバーアチーバーがいること自体、知能が学業成績にそのままつながるわけではないことを示している。

そこで浮上してくるのが、学ぶ力の重要性である。学ぶ力を身につければ潜在能力を十分発揮できるけれども、学ぶ力が身についていないと潜在能力の大部分が埋もれたままになってしまう。では、学ぶ力というのは、具体的にどのようなものなのだろうか。この本では、それを認知能力、非認知能力、メタ認知能力という三つの側面から考えていきたい。

教科書を読んで新たな内容を学習する際には、まず文章の意味を読解する必要がある。さらには、すでにもっている知識を用いて、新しい内容を理解する必要がある。たとえば、はじめて掛け算を学ぶ際には、足し算を応用し、五×三は五を三つ足すのと同じだというように理解する。

でも、このように文章を読解したり既存の知識を引き出して用いたりする知的活動以外の要因が、じつは勉強ができるようになるかどうかに深く関係することがわかってきた。そこで最近教育界で注目されているのが非認知能力だ。

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教育界で注目されている「非認知能力」

労働経済学に関する業績で2000年にノーベル賞を受賞した経済学者ヘックマンは、幼児期における教育の効果に関する研究データをもとに、幼児期にとくに重要なのは、認知能力(いわゆるIQで測られるような知的能力)を身につけることではなく、非認知能力を身につけることだと結論づけた。

非認知能力というのは、自分をやる気にさせる力や忍耐強く物事に取り組む力、集中力、我慢する力、自分の感情をコントロールする力など、学力のような知的能力に直接含まれない能力のことである。

それは、心理学者のサロヴェイとメイヤーが概念化し、ゴールマンにより一般に広められた情動知能に相当するものである。ゴールマンの『情動知能』という本は、日本では『EQ こころの知能指数』として翻訳出版され、EQという言葉が一気に広まり、企業などの採用試験でもEQが重視されるようになった。では、情動知能あるいは非認知能力とはどのようなものなのか。