高岡寿成という成功例を忘れたのか

高岡寿成(日本陸連強化委員会シニアディレクター中長距離・マラソン担当/花王陸上競技部監督)という日本の長距離競技における屈指の成功例がある。

高岡は、京都・洛南高時代に全国高校駅伝に3年連続で出場。3年時は4区を区間賞・区間新(当時)で快走して、チームの準優勝に大きく貢献した。関東の大学からも勧誘を受けたが、「箱根でつぶされたくない」と地元の龍谷大に進学。“独自の進化”を遂げることになる。

酒井政人『箱根駅伝は誰のものか「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)

関東勢が箱根駅伝に注力するなかでスピードを徹底強化。大学4年時に5000mで13分20秒43の日本記録(当時)を打ち立てると、実業団のカネボウでも大活躍した。5000m、10000m、マラソンで日本記録(当時)を樹立。

2000年のシドニー五輪は10000mで7位入賞を果たしている。2002年10月のシカゴマラソンでマークした2時間06分16秒は、厚底シューズが登場するまで15年近くも日本記録として残っていた。

高岡が関東の大学に進学していたら、さまざまな駅伝に駆り出され、消耗し、このような輝かしい競技人生にならなかった可能性もある。花形の箱根駅伝がないからこそ“エッジの効いた選手”や、大学卒業後にさらに伸びて、五輪や世界選手権のマラソンなど長距離競技で活躍する選手が誕生する……。

箱根駅伝の人気で日本長距離界のレベルは間違いなく高くなっている。しかし、突き抜ける存在は多くない。2000年以降、高岡と大学駅伝よりも自身の夢を貪欲に追いかけた大迫傑だけが世界と互角に戦えたマラソンランナーだ。

有力選手の全員が箱根駅伝を追いかける時代になると、世界トップと戦うという意味では日本の長距離界には未来はなく〝絶望〟しかないのかもしれない。だからこそ、むやみに関東勢の尻を追いかけることをしない「関西の雄」と呼ばれる大学が再び現れることを期待せずにはいられない。

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