独走状態のTSMCが抱えるチャイナリスク
また、台湾問題など地政学リスクの高まりも大きい。今日、回路線幅7ナノメートルなど先端分野のロジック半導体の製造に関して、TSMCは事実上の独走状態にある。同社は台湾での生産能力強化に集中した。2025年に新竹県にある工場でTSMCは回路線幅2ナノメートルの次世代チップ量産を開始する計画だ。
一方、中国政府は台湾への圧力を段階的に強めた。今後、台湾海峡の緊迫感が高まるようなことがあると、人工知能などに用いられる高性能の画像処理半導体(GPU)などのチップ供給は停滞する恐れがある。それは世界にマイナスだ。リスクを分散するために、TSMCなどは日米欧の補助を活用しながら海外直接投資を強化した。
その一つとして、TSMCは熊本県菊陽町に2つの工場を建設中だ。第1工場の投資金額は1.2兆円程度、回路線幅12~28ナノメートルのチップを主に生産する予定だ。第2工場の投資金額は2兆円規模に達する見込みであり、2027年に6ナノメートル幅の回路を持つ先端分野のチップの量産を目指す。
投資金額は日本全体で10兆円規模に
わが国では、熊本、宮城、北海道などで半導体関連の大型プロジェクトが走り出した。熊本県、長崎県ではソニーがCMOSイメージセンサ(画像処理半導体の一つ)の生産能力拡張を進める。投資規模は非公表だが、熊本県での工場建設は8000億円程度に達するとの見方もある。熊本県では三菱電機も1000億円程度を投じてパワー半導体の工場を建設する。
広島県では、米マイクロンテクノロジーが生産能力の強化に取り組む。マイクロンは対日直接投資を最大5000億円程度実施する方針だ。三重県ではキオクシア(旧東芝メモリ)と米ウエスタンデジタルが、メモリ半導体の生産能力強化に1兆円を投じる。宮城県では台湾の力晶積成電子製造(PSMC)とSBIホールディングスが、8000億円以上を投じて半導体工場を建設する。
北海道千歳市では次世代の回路線幅2ナノメートルのチップ生産を目指すラピダスが工場建設に着手した。トヨタ自動車やソニー、NTTなど国内大手8社が出資し、総額は5兆円規模だ。それらを単純に足し合わせると、投資金額は10兆円規模に達する。