すべての行政サービスを1カ所に集約

フィンランドのデジタル化の柱は、個人を特定できるID(個人識別番号)と、それを使って電子的に本人確認(e-identification)ができるシステムの存在だ。また、日本では自治体ごとに異なる行政サービスのホームページが展開されているが、フィンランドでは、さまざまな行政サービスが一元化された、政府のsuomi.fiというサービスプラットフォームがある。

2022年時点で、フィンランドの成人人口約454万のうち、実に92%にあたる420万人が電子本人確認システムを使っているというから、今や国民にはなくてはならないサービスだと言ってよいだろう。

この本人確認システムと、政府のプラットフォームはリンクされているので、わざわざ役所に行かなくてもオンライン上でさまざまな手続きが行える。まだまだ多くの手続きで、本人確認のために、マイナンバーカードの写しや紙の住民票、運転免許証の写しなどの書類が必要とされる日本とは大違いだ。

フィンランドのデジタル行政サービスポータルサイト「Suomi.fi」トップページ

1960年代からIDナンバーで情報管理

フィンランドでIDナンバーが付与され始めたのは1960年代。最初は年金を受け取るための番号として使われていたが、1971年にはこのIDを活用して、初の人口調査記録(日本の戸籍や住民票のようなもの)がデジタルで登録された。

ただ、この国の人口記録の歴史は17世紀にさかのぼるそうで、その頃は教会単位で人々の誕生、結婚、死亡の情報が登録されていた。この記録は、ヨーロッパでは一番古い。フィンランドではこの時代から、国民の情報を登録して活用するための素地が築かれていたのだろう。

多くの国の国政調査では、調査員がそれぞれの家を個別に回って情報を収集している。日本も同様だ。フィンランドでは、1989年からオンラインで最新の情報がアップデートされている。これだけでも、フィンランドのデジタル化がどれだけ前から始まっていたかがわかる。

フィンランドで登録される情報は、たとえば住所や生年月日などの基本情報だ。子どもが生まれたら、病院がすぐに登録を行う。また、ルースカネン氏によると、このシステムには、人の情報だけではなく、ビルやアパートなどの情報も記録されているという。

免許の更新やパスポートの発行も

政府のサービスプラットフォームであるsuomi.fiには、日本の住民票にあるような、個人の基本的な情報以外に、不動産情報、今までに受けてきた教育の情報など、多岐にわたる情報が登録されていて、年金情報へのリンクもある。安全性の高い技術を使い、異なるデータベースやシステム上に保存されたデータを統合できる仕組みが作られているという。

政府のプラットフォームにログインする際は、銀行ID、証明書カード、モバイル証明書を使うことができる。銀行とも連携しているため、多くのフィンランド人が、銀行のIDとパスワードを使っているという。

Suomi.fiで可能なサービスの一覧