難所はほとんどないコースで遭難

1989年10月8日の朝、40~60代の男女10人のグループが、北アルプス劔・立山連峰の玄関口となる室堂から立山に入山した。一行は毎年秋に定例山行を実施しており、この年は初日に立山三山を縦走して劔御前小舎に宿泊し、翌日は2班に分かれて行動したのち、雷鳥沢にある温泉宿で合流してゆっくり汗を流し、翌日帰路に就く予定であった。

ところが室堂から登山を開始してしばらくすると天候が急変した。早朝の時点では晴れ渡っていた空に雲がかかりはじめ、稜線に立つ一の越山荘に着くころには本格的な吹雪となっていた。それでも10人は登山を中止せず、そのまま先へと進んでしまう。

一ノ越山荘からこの日に泊まる剣御前小舎までは、標高3000メートル前後の稜線をたどる縦走コースで、標準的なコースタイムは約3時間30分。難所はほとんどなく、天気がよければほぼ問題なく歩ける行程である。

しかし、猛吹雪のなかでの行動となると、話はまったく違ってくる。間もなくして遅れる者や足に痙攣けいれんを起こす者、眩暈めまいを訴える者が出はじめた。ようやく行程の約半分まで来たときにはすでに午後4時30分になっており、ここでとうとう行動不能に陥る者が現れてしまった。

このためリーダー格の男性は救助を要請することを決め、2人のメンバーを伝令に送り出し、残る8人はその場で救助を待つことになった。

8人全員が一挙に命を落とした

だが、伝令の2人は猛吹雪のためにルートを誤り、最寄りの山小屋へはたどりつけず、日没のため行動を打ち切らざるをえなくなった。山中で一夜を明かした2人は夜明け前から行動を再開したが、とうとう途中で力尽きて倒れてしまった。

そこにたまたま通りかかった登山者に発見され、間一髪のところで剣御前小舎に担ぎ込まれた。一方、吹き曝しの稜線上で救助の到着を待っていた8人は、全員が低体温症で命を落とした。

この事故から17年後の2006年、同じ北アルプスの白馬岳で、同様の事故が起きた。祖母谷温泉から清水尾根を経て白馬岳を目指したガイド登山の7人パーティ(男性ガイド1人、40~60代の女性参加者6人)が、やはり天候の急変により遭難してしまったのである。

一行が猛吹雪に見舞われたのは、目的地の山小屋までまだ2時間ほどかかる稜線上で、女性参加者が次々と倒れ、ガイドだけがどうにか山小屋にたどり着いて救助を要請したが、結局、4人が低体温症で死亡した。

写真=iStock.com/VichoT
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事故当時、稜線で吹いた風は風速20メートルを超すものと思われ、まともに歩けないほどの猛吹雪だったという。稜線上の山小屋周辺では、翌朝にかけてなんと2メートル近い積雪を記録したという。