今のままではタレントが安心して活動できない

タレントを守ることを怠る企業、それがジャニーズ事務所の繁栄の裏側にあり、そうした企業体質はいまだに保持されている。これが事務所に内在する最も深刻な問題であり、そうした企業風土が抜本的に改革されない限り、未成年タレントの育成はやめるべきだし、成人タレントにとっても、安心して活動できる環境の確保はおぼつかない。もちろん他企業は、事務所との取引を継続・再開すべきでない。

もしジャニーズ事務所がタレントをもっと守る気があれば、たび重なる節目の時期に、適切な調査を行ったはずだった。8月末に発表された再発防止特別チームの調査報告書は、(1)文春との裁判、(2)ジャニー氏および、事務所の采配をふるっていた姉のメリー喜多川氏の死去、(3)BBCの取材時、の少なくとも3回にわたり調査が可能だった、と記している。

調査報告書の発表後も、「全容解明をしないのか」という質問は、記者会見で毎回出ている。そのたび事務所は、「被害者のプライバシーを保護し、彼らの気持ちを尊重する必要があるため不適切」と答えている。今回は、300人を超える被害者から補償申請があったことを明らかにしたにもかかわらず、わずか21人の被害者のヒアリング結果をまとめた再発防止特別チームの調査について「徹底した事実調査をした」とまで言い切った。

撮影=阿部岳人
写真左)東山紀之・ジャニーズ事務所社長、写真右)木目田裕弁護士・ジャニーズ事務所顧問弁護士

再発防止チームの報告書で「調査完了」にしてはいけない

だが、事務所が繰り返す「被害者のプライバシー保護」という理由は、的外れだ。ヒアリングを徹底的にするべきなのは、被害者というよりむしろ、経営陣やスタッフ、合宿所やジャニー氏の自宅などに出入りしていた清掃や送迎担当者、「ジャニ担」など、事務所やタレントと頻繁につきあいのあったテレビやスポーツ紙などの編集・制作、及び広告代理店の関係者らだからだ。それと被害者の話を照合する必要がある。

問題の根本は、これだけ多くの人たちが長期間、性加害の隠蔽と放置に協力してきたことだ。つまりジャニー氏やタレントの周辺にいた人たちが、なぜ何十年もこの犯罪を見過ごしてきたのか、ということだ。どのようにしてこうした環境がつくられ存続してきたのか把握し、それを解消するための有効な対策を講じなければ、再発防止ははかれない。

しかもジャニー氏だけでなく、社員による性加害もあった、と調査報告書は指摘している。事務所側に相談したのに我慢するよう言われた、という被害者の証言も出ている。そうした重大な問題が再び見過ごされている。隠蔽と放置は変わらず続いているのだ。