マルチタスクに慣れず就活に苦戦

発達障害当事者の実例

村上優子さん(30歳・仮名)大阪大学外国語学部卒業

村上優子さんは大阪大学を卒業し、現在は某通信会社で障害者雇用の契約社員として働いている。小さい頃から成績は良かったが、勉強するのが好きだからというより父親から怒られたくないため、褒めてもらうためにそうしていたという。幼い頃から忘れ物が多かったりガールズトークになじめなかったりと、ADHD・ASDの傾向が出ていた。

大学生活はうまくやれていたが、就職活動で苦労することになる。広告代理店で企画営業の職に就きたいと考えていた彼女は大手から順に受けていった。しかし、面接で緊張してまったく話せなかったり、事前に考えていた回答が飛んでしまうときもあった。また、予期せぬ質問がくるとうまく答えられなかった。

写真=iStock.com/kazuma seki
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就活は自分をよりよくアピールしないといけなかったり、ときには本音と建前を使い分けなければならないことがある。本書で取材してきた当事者のほとんどが就活でつまずいていることからも、こうした就活テクニックと発達障害の特性は非常に相性が悪いのだと考えられる。

「周りの子たちは阪大というネームバリューからトントン拍子で内定が出ている中、自分だけ夏頃までずっと就活を続けていて。それプラス卒論の準備もあったので、両立ができなくて大変でした。いわゆるマルチタスクができなかったんです。結局内定が出たのは中小の印刷関係の会社でした」

「勉強はできるけど社会ではやっていけないね」

この会社の人間関係が、村上さんを苦しめることになる。まず、気分に波のあるベテランの女性がいた。村上さんにはADHDのほか、言われたことを言葉のままに受け取ってしまうASDの特性もあった。そのため、そのベテランの女性とコミュニケーションをうまく取れないことが続いた。

「どうしてもケアレスミスが多く、そのたびにベテランの女性に怒られていました。そんなある日、ミスで怒られている最中「もう顔も見たくない」と言われたので「そうですか。わかりました」と、自分のデスクに戻ったら後から内線がかかってきて「今みたいなときは引き下がるところじゃないでしょ」と言われてしまい……」

教師から「もうお前は帰れ!」と怒られて本当に家に帰ってしまう小中学生のようだ。「帰れ」と言われたから帰ったという経験のある人は、思春期の場合は単に反抗しているケースが多いだろうが、中にはASDの特性からそのような行動を取ってしまった人もいるのかもしれない。

他にもベテランの女性からは「あなたは勉強はできるけど社会ではやっていけないね」「今までどういう教育を受けてきたの?」といった人格否定的なことを言われた。阪大卒を背負っているぶん、ミスをしたときの相手の落胆は大きい。こうしたプレッシャーに加えて給与も少ないといった理由から、村上さんは3年間働いたのちにこの会社を退職する。