仕事でクライアントから話を引き出すときはとくに重要ですが、意見が分かれやすい事柄について議論するときには、会話占有率を意識することが必要です。相手が話している内容から、相手が注目している事実や、価値観、知識量を推しはかっていくのです。そして意見の異なる人の場合は、価値観を共有していないわけですから慎重に話を進めていく必要があります。

相手とぶつからないように遠慮や忖度そんたくをするということではなく、異なる価値観の持ち主に対しては、自分が依って立つ価値観を一から丁寧に説明しなくてはなりません。その見極めをするために、まず相手に多く話してもらうのです。

たとえば、すでに述べたとおり私は死刑に反対の意見をもっています。

死刑制度の是非について誰かと議論する場を与えられたとき、あるいは誰かと話している最中に死刑制度の是非が話題にのぼったときに、相手が同じ立場とわかれば、最初から同じ価値観のもとで話を展開していくことができます。「死刑反対」という意見の前提条件として、私の価値観について説明をしなくても、たいていは理解し合えるわけです。

しかし、死刑容認の意見をもっている人に対しては、私がどんな価値観をもって「死刑廃止すべし」という結論に至っているのかを丁寧に説明しなくてはいけません。

議論は、相手の話を引き出すことも重要だ

相手がどの立場をとっているかは、まず相手に話してもらわないことにはわからない場合も多いです。宗教の問題を議論するときも同様です。

紀藤正樹『議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SB新書)

旧統一教会の被害者を救済し、その問題を追及している私は、一部の人に「宗教全般に対するアンチ」と見られているかもしれません。そうであれば、何かしらの信仰心を大切にしている人から警戒されてしまう可能性があります。

もちろん、事実はまったく異なります。私は、信教の自由も含めて、基本的人権はもっとも大切にしなければならない権利の1つだと思っています。ただ、信教の自由も、表現の自由と同様、他者の人権を侵害することは許されないと考えています。

私が旧統一教会を問題視しているのは、他者の人権を侵害すること、すなわち正体を隠した勧誘などマインド・コントロールを駆使した卑劣な手口で人を取り込み、霊感商法や高額献金、人としての尊厳を否定する労働、生活の収奪など、その人や家族の人生をめちゃくちゃにする活動を行っているからです。すでにいくつもの裁判例も出ていますが、これら旧統一教会の活動の問題点やマインド・コントロールの問題性については、詳しくは拙著『マインド・コントロール』(アスコム)をご覧ください。

旧統一教会が、こうした活動をやめて、現に生じた被害者を誠実に救済していくのであれば、その後の旧統一教会の活動にまで異議を唱えることはありません。

まとめ
・相手の価値観を知るために、相手に多く話してもらうように心がける。
・意見が異なる人の場合は、価値観を共有していないので慎重に話を進めていく。
・相手が同じ立場であれば、最初から同じ価値観のもとで話を展開できる。
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