思い出すたびにゾッとする、軽率すぎた行動

クマが岩穴や谷の奥深くに入ってしまって電波が拾えないのだ。電波をキャッチできても「そこは人間には無理」と探検部で鍛えた私ですら血の気が引くような場所ばかりだった。1年目は空振りに終わった。

しかし、2年目の春、行動範囲が狭いメスの電波をキャッチした。そこは集落の近くで比較的アクセスしやすい場所だったが、険しく切り立った尾根だった。そこに木が生えていて、その根っこの下に空いた大きな空間に冬眠していたらしい。尾根をよじ登って冬眠穴に着くと、興奮のあまり私は穴に顔を突っ込んでしまった。

「やった。ついに見つけましたよ!」

目の前に大きな黒い穴が2つ現れた。それは寝ているクマの鼻の孔だった。

このときのことは思い出すたびにゾッとする。初めてクマの冬眠場所を発見できたのはとても嬉しかったのだが、あれは私があまりにも軽率で死んでいてもおかしくないほど危ない状況だった。

あとでわかったのだが、このメスは穴の中で出産して子育ての最中だったのだ。招かれざる客から我が子を守ろうとすれば攻撃的にもなるだろう。一歩間違えば冬眠の邪魔をされたクマを激怒させて襲われていたかもしれない。

普段のクマはそこらへんの地面に転がって寝ている

近くにビデオカメラを設置して、さあ観察するぞと意気込んだものの、ほどなく子どもを連れて引っ越しをしてしまった。この冬眠穴には2つ出口があって、母子は裏口から出ていったらしい。やかましい人間に見られながら子どもを育てる気になれなかったのだろう。このときの反省から、冬眠穴を見つけたときは少し離れて観察するようにしている。

山梨の場合、クマの冬眠場所は、人がやすやすと近寄れない急峻きゅうしゅんな場所が多かった。やはり崖の上の木の根元の空間とか、濃い藪に囲まれた崖の上とか、尾根の真下にある沢の源流の近くとか、恐ろしくアクセスが悪いところばかりだった。

おそらく山梨では特に冬眠の時期が狩猟のシーズンに当たるため、人間を恐れていたのだろう。

その後も現在にいたるまでたびたび冬眠穴の調査は行ってきた。ときには命の危険を感じるようなハプニングもあった。それはあとでお話ししたい。

ちなみに冬眠以外の場合、クマは意外なほどその辺に転がって寝ている。どうやら寝心地重視で場所を選んでいるようだ。大きな木の根元の少しフラットになったところに寝ていることがある。

針葉樹の上も森のクマたちの間で人気である。枝が横に伸びて安定した寝床になるだけでなく、夏場は下から風が吹いて涼しいのでなかなか寝心地がいいらしい。地面に寝るときは平坦な場所を選んでいる。藪がちな場所では、ツルなどでベッドを編んで寝ているクマもいた。