バイトしながら大学に通うが、虐待の後遺症で接客業は困難

身を守れるようにと大学では労働法を専攻したが、バイトのため求人を探してみると、労働法以前の職場ばかりだった。「クレープを焼きながら楽しくお話ししませんか」という求人があり、行ってみるとクレープを焼く人は別にいて、男性客の横にすわって話をするキャバクラのような仕事だったこともある。

困ったのは、スーパーや販売店などの接客のバイトが難しいことだった。虐待の後遺症か、客と対応していると意識を失うことがあったからだ。警備のバイトなら現場に立っていればなんとかなると、これをつないで大学生活を続けた。

常勤の警備員と違い、学生バイトはイベントなどがあった時の臨時の警備に配置される。現場が遠くても移動時間に対する賃金や交通費は払われず、現場にいる8時間に最低賃金水準の時給を掛けた1日8500円程度にしかならない。そこへ2020年3月からのコロナ禍が到来し、イベントが激減した。

支援者に教えてもらった「夜の商売あるよね」は人権侵害

所持金は1100円にまで落ち込み、寮費も払えなくなった。卒業まであと1年。その期間をもちこたえようとインターネットで調べるなどして、若者向け自立援助ホームに相談し、ホームが安く借りてくれたアパートに1年の期限で住むことができた。

2020年4月からは緊急事態宣言下で授業がなくなり、やがてオンライン授業が始まり、対面授業はないままだったが、2022年3月に卒業はできることになった。卒業したら奨学金はなくなる。行政の生活相談に行くと「若いんだから夜の商売とかあるよね」と言われた。たまたま知り合った水商売関係の女性から、冒頭の女性相談会に行けば食料をもらえる、と聞いて出向いた。

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そこで支援者につながり、初めて、「夜の商売もあるよね」が人権侵害発言だと知った。東京都内で生活保護を受けられるよう申請に同行してもらうこともできた。ところが、福祉事務所の窓口では、元の居住地で生活保護を受けるように言われた。交通費として1100円渡され、これで行けるところまで行き、そこの福祉事務所から交通費をさらに受け取る形でつなぎながら戻ればいい、という。支援者の抗議でこの指示は撤回させることができ、生活保護が利用できるようになった。

「女性相談会で出逢った支援者が伴走を続けてくれたおかげでなんとか乗り切れた」とユリは振り返る。家族の生活は世帯主の責任、という社会で、公的な生活支援や住まいの確保は手薄だ。それが、すでに支える力を失った家庭にユリを縛り続け、飛び出した後も不安定な生活を生み出し、コロナ禍がそこを直撃した。