作業員の命よりも静岡県の水を優先する川勝知事
JR東海によれば、人命安全を確保するために機械による無人化工法の検討を行ったが、現在の技術レベルでも、作業員の立ち合いを避けることはできず、また、突発湧水の予見は非常に難しいとしていた。
2021年10月27日、岐阜県瀬戸トンネル事故で、リニア工事による初めての死亡事故が発生した。専門家は「作業員が現場にいる状況は避けられず、このような事故が発生するリスクは必ず存在する」と指摘した。
どう考えても、「人命の安全確保」が優先されるべきだが、静岡県は「失われた水は戻らない」として、「工事中のトンネル湧水全量戻し」を強硬に主張、その論拠に世紀の難工事・丹那トンネルの事例を挙げたのだ。
筆者が『丹那トンネル開通・函南駅開業50周年記念誌』を確認すると、当時の函南町長が「丹那盆地の永久に失った水」と問題にしたのは、工事期間中に流出した芦ノ湖3杯分の6億トンのことではなく、トンネル工事後、50年たっても依然としてトンネル内に流れ出ていた湧水10万トン(日量)のことだった。
そもそも丹那トンネルの計画当初から、工事中の湧水を丹那盆地に取り戻すという考えはなかった。トンネル工事は本来、水を抜くことが目的である。
函南町長であればJR東海の案に納得したはず
失われた水は戻ってこないが、新たな湧水が生まれている。
当時、丹那盆地には10万トンの湧水が湧き出てトンネル内の湧水となっていた。熱海側に流れ出る4万トンは行政区域の違いで手の出しようがないが、函南町内の丹那トンネル「西口」の田方平野に流れ出る6万トンをポンプアップして丹那盆地へ戻す方策もあったと、函南町長は考えたようだ。
函南町長の「永久に失った水」が工事後の湧水であるならば、JR東海は、リニア工事でトンネル内の湧水全量をポンプアップして導水路トンネルを使って、大井川に戻す方策を示している。
現在ならば、函南町長が「後悔の念」を抱くことはなかっただろう。
それなのに、県担当者は「50年後の県民が後悔しないようJR東海と対話を尽くしたい」などと述べ、函南町長の言葉を、県境付近の工事中の湧水流出に対応する結論に使った。
「失われた水は戻らない」として、県担当者は「『トンネル湧水の全量戻し』は当然」などと述べた。工事中と工事後では意味合いが全く違う。これでは、故意に事実を歪めて、印象操作したことになる。