一卵性と二卵性を比較することで遺伝の影響を捉える

ここで重要なのは、別々に育った一卵性双生児の類似性ではなく、同じ家庭で育った一卵性双生児の類似性を二卵性双生児の類似性と比較することです。そもそも別々に育ったふたごを見つけるのは並大抵のことではありません。少なくとも日本ではそれが行われてはいません。

また別々に育ったといっても、同じ州のわずか40マイルしか離れていない土地に住み、同じ観光地へバカンスに出かけていて、かなり似たような経験をしている可能性もあります。その代わり、同じ家庭で育った遺伝子の等しい一卵性と、遺伝的には一卵性の半分しか共有していませんが一卵性と同様に同じ家庭で育った二卵性の類似性を比較してゆきます。

ここで一卵性が二卵性よりもよく似ていれば、それには遺伝の影響がかかわっていると判断でき、さらに一卵性の類似性が二卵性を上回る程度が大きければ大きいほど、遺伝の影響が大きいと判断できます。逆に一卵性双生児も二卵性双生児もどちらも似ていたとしたら、それは遺伝によるのではなく、二人が経験を共有することのできる共有環境がかかわっていたと推察できます。

さらに遺伝要因も共有環境要因も等しい一卵性ですら似ていないとしたら、その分は一人ひとりに固有に効いている非共有環境の影響ということになります。似ている程度は相関係数という数字で表します。これは完全に一致していたら1、全く似ていなかったら0になるような数値です。

遺伝的な影響は成長するにつれて大きくなる

まずは親が一番気にしそうな知能と学業成績の一卵性と二卵性の双生児の相関係数を図表1、そこから算出した遺伝、共有環境、非共有環境の割合を図表2に示しましょう。

図表作成=師田吉郎
知能と学業成績の双生児相関
図表作成=師田吉郎
知能と学業成績の遺伝と共有環境・非共有環境の影響の割合

知能はIQテストによって測られたもので、2010年にそれまでに発表された論文の1万組を超えるデータを全部まとめて計算され、統計的な信頼度の高いものです(*1)。児童期から青年期、そして成人期初期と成長するにつれて、一卵性双生児の相関は上昇するのに対して、二卵性双生児の相関は減少します。そこからこの間に遺伝の影響が41%から55%、そして66%まで上昇しているのがわかります。

共有環境、つまり親や家庭の影響は、児童期には33%とそれなりにありますが、その後は18%、16%と減少します。これは大きくなるにつれて家庭を離れ、自律する機会が増えることで、親の影響が薄れて、本来の遺伝的資質が顕在化してくることを示唆しています。

(*1)Haworth, C.M.A., Wright, M.J., Luciano, M., Martin, N.G., de Geus, E.J.C., van Beijsterveldt, C.E.M., Bartels, M., Posthuma, D., Boomsma, D.I., Davis, O.S.P., Kovas, Y., Corley, R.P., Defries, J.C., Hewitt, J.K., Olson, R.K., Rhea, S-A., Wadsworth, S.J., Iacono, W.G., McGue, M., Thompson, L.A., Hart, S.A., Petrill, S.A., Lubinski, D., Plomin, R.(2010)The heritability of general cognitive ability increases linearly from childhood to young adulthood, Molecular Psychiatry, 15(11), 1112-1120.