3つの河川に共通する「クマ」

そして3つ目は熊本県の球磨川である。球磨川は県南部を流れる同県最大の河川であり、最上川・富士川と並んで日本三大急流の一つとして知られる。上流の球磨郡から流れてくることからこの名があり、人吉盆地から球磨村にかけての急流は川下り(ラフティング)の名所として知られる。

2020年7月の豪雨で球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」が浸水し、14名の犠牲者を出したことは痛ましい被害として記憶に残る。

この三つの河川が氾濫し、多くの被害をもたらしたのは単なる偶然と言えるのか。そうではなく、地名学的な視点で見ていくと、思わぬ共通点が浮き彫りになる。それは三川ともその名に“クマ”という字を使っていることである。

そもそも地名の由来を探る際に注意すべきなのは漢字に惑わされないことである。中国から漢字がもたらされるまで、地名は音で伝えられてきた。漢字は当て字としてあてがわれてきたのである。

千曲川、阿武隈川、球磨川に共通するのは“クマ”という音である。漢字は「曲」「隈」「球磨」と異なっているが、大きくとらえれば二つの意味がある。

令和2年(2020年)7月3日からの大雨を受けて国土地理院によって行われた現地調査で撮影された空撮写真(写真=国土地理院/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「曲がっていて」「入り組んでいる」特徴を表している

一つは「曲」に象徴されるように「川が曲がっている」状態を指している。千曲川の由来については、伝承に基づく「血隈川」説、信濃国の郡名からとったという「筑摩川」という説もあるが、いずれも根拠に乏しい。やはり、千曲川の由来は多くの曲流に由来すると考えてよい。

もう一つの説は「隈」に代表される「入り込んだ奥まった所」という意味である。実は「隈」という地名は圧倒的に九州に多い。特に福岡、佐賀、熊本の三県に集中している。人名でも佐賀県出身の大隈重信など著名人も多い。熊本も元は「隈本」だったのだが、戦国武将の加藤清正が「隈本」はマイナスのイメージがあるので勇ましい「熊本」に改称したという経緯もある。

阿武隈川の「隈」も同様な意味である。阿武隈の由来として「あふ熊」で「熊に出会った」ことによるとする説もあるが、いかにも素人の考えそうな話である。古代には「安福麻」、中世以降は「逢隈川」「青熊川」などと表記されたとのことだが、その中に「合曲川」という表記があったという。これこそ「隈」の本質を解き明かす鍵となる地名である。つまり、「隈」という「入り込んで奥まった」地点は「曲流」しているということになる。